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この食事の方法で認知機能低下リスクは4割減少する~科学研究から見る、食と脳・こころ(後篇)

漆原 次郎(フリーランス記者)  2018年08月20日

一方、スコアが「やや高い」人の例では、朝食からトースト、揚げドーナツ、ゆで卵、桃、トマトジュース、牛乳、コーヒーとかなり多様です。また、昼食や夕食も同様に多様です。

スコアが「高い」人の例を見てみると、「やや高い人」とほぼ変わらないように見えます。でも、たとえばサラダや汁物をとってみても、食事ごとにそれぞれで食材を変えているなどしており、多様性に富んでいます。

【Q】この結果から、どんな人がどんなことを心がければよいでしょうか?

大塚 スコアが「低い」人が、そこから脱出することが重要な意味をもちます。少しでもスコアの「高い」のほうへ近づくことが望ましいということです。

ご自身の食事を見つめて、摂取できていないと思える食品群の食材を足していくことで、少しでも多様性の高い食生活に近づけるようになります。

「手のかかる食事」が効果的な可能性も

【Q】食品摂取の多様性が高いほど、認知機能低下リスクを抑えられるのは、どうしてなのでしょうか?

大塚 摂取する食品の多様性が高い人では、低い人に比べて、タンパク質や脂質、ビタミン類、微量栄養素などのさまざまな栄養素の摂取量が高くなっていたため、これらの栄養が脳の機能維持によい効果をもたらしたと考えられます。

それと、これはデータから確認できることではありませんが、多様性の高い食生活を送るということは「手のかかる食事をする」ということであり、その効果も十分にあると思っています。献立を考えて、食材の値段を見ながら買いものをして、包丁や火を使って調理して、食べたあとは後片付けをしてといったように、豊かな食生活をしようとすると、頭も身体も使うことになるわけです。

【Q】60歳以上だけでなく、若い人にとっても、いろいろな食品を摂ることは将来の認知機能低下リスクを下げることにつながるといえそうですか?

大塚 60歳以下の方々にも、いろいろな食品を食べることについては推奨します。ただし「いろいろな食品をひたすら食べればいいんだ」となると、肥満などのリスクが高まってしまいます。体重の増加には注意しながら、多様な食品の摂取を心がけていただければと思います。

「初期値」を高くしておくイメージで

【Q】最後に、記事でテーマとした「食と脳・こころ」の観点から、私たちがどのような食生活を送るとよいか、お聞きします。まず、高齢期の人たちについてはいかがでしょうか?

大塚 高齢期になると、食生活がおろそかになりがちです。高齢期の方々の食事ほど、食品摂取の多様性は低いほうに向かいやすいので、意識的に豊かな食生活を送ってほしいですね。共に暮らす方のために、あるいは自分のために、愛情のこもった料理を作るなどして、健康に配慮していただきたいと思います。

【Q】これから高齢期を迎える人たちに対してはいかがですか?

大塚 中年期までの方々にとっては、糖尿病や高血圧といった生活習慣病が認知症などの重大なリスクファクターとなります。動脈硬化や肥満、高血圧などを予防することが、将来の認知症、また心臓病や脳卒中の予防につながるわけです。食べすぎには注意しつつ、さまざまな栄養を摂って、運動をして筋肉をつけておくことで、将来、高齢期を迎えるときの「初期値」を高くしておくようなイメージをもっていただければと思います。

親御さんなど、みなさんにとっての親世代の食生活にも目を向けていただくといった配慮があると、よりよいのではないでしょうか。そうした心がけは、将来の自分自身の豊かな食生活・食習慣にもつながると思います。

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執筆者プロフィール

漆原 次郎(フリーランス記者) 

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。

<記事提供:食の研究所
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