企業インタビュー
2013年11月26日
福井の伝統工芸、越前漆器作りを中国・上海で実施されている上海福井クラフト有限公司様。1993年の進出から、20年以上が経過し、年々売上を伸ばされている食器メーカーです。進出されてから今日に至るまでの販路開拓の苦難や、日本料理ブームの今後の可能性について、上海の駐在経験が豊富な黒田正俊社長(総経理)にお聞きしました。
【Q】中国での沿革をお教えください
1993年に設立(合作)し、2000年に独資化したあと、2003年より中国国内向けに販売を行う内資公司を設立しました。
【Q】現在の事業概要をお教えください
日本の本社同様に、業務用の漆器・食器・弁当用プラスチック容器の製造と、卸販売を行っています。取扱いアイテム数は、上海の自社工場で製造している食器や容器、さらに日本から仕入れている有田焼きなどの陶器を合わせ、約8,400~8,500点になります。
【Q】中国・上海を選んだ理由をお聞かせください
人口の多い中国が、将来的に経済発展していくことを予測して進出しました。上海を拠点として選んだ理由は、歴史的に外国との交流が多いことと、世界トップクラスの企業が集まってくるからです。競争率も激しく、日系企業が生き残るのも厳しいですが、多くの企業が目をつける魅力的な市場だと言えます。さらに、人も商品もものすごいスピードで動くため、常にどうなるかわからない緊張感が良い刺激になります。
【Q】中国進出当初、苦労されたことはありますか?
進出したばかりの頃は、商品を製造するための原料や備品の調達先が、中国国内にはありませんでした。そのため、独自のルートで調達先を探すことに時間がかかりましたね。ようやく原料の仕入先を見つけても、なかなか商品の品質を安定させることができず、大変苦労しました。
【Q】中国の食品業界向け展示会に、頻繁に出展されているようですが?
上海で行われる大型展示会「国際酒店用品展」には、ほぼ毎年出展しています。最近では、1回の出展で1,700社と商談すると、そのうちの50社程度と成約ていします。
短期間でも多くの企業様と商談でき、さらに効果的な商品PRの場になるので、積極的に出展するようにしています。
【Q】展示会での商談は初めから上手くいったのですか?
取扱い商品は8,000点以上!
そんなことはありません。1996年に初めて展示会へ出展したときは、私はまだ、中国語を満足に話すことができませんでしたし、中国のビジネスを理解していませんでした。そのため、100万円もかけて展示会に出展したものの、結果的に1件の商談もまとめることができずに、会期が終了してしまったんです。このままでは、会社がつぶれてしまうのではないかと、言葉では言い表せないくらいのショックを受けました。これまでの駐在経験の中で最も忘れられない出来事でした。
【Q】それから、どうやって販路を拡大されてきたのですか?
まずは中国語を学ぶことと、上海流の仕事のやり方や資金のやりくりを覚えることに集中しました。上海でどうやって生き残っていくかを考えたんです。
考えていくうちに、せっかく輸出ビジネスが盛んな地域に進出したのだから、上海での販売に注力するのでなく、他の国へ商品を販売することを決意しました。それから、社内の貿易事業部を設立し、日本やロシア、ドバイなど、中国以外の国への輸出事業をスタートさせたんです。
また、商品のラインナップも数を増やし、どんな小さな発注でも積極的に引き受けるようにしました。すると、そのうち既存のお客様の口コミで、新規のお客様をご紹介いただくようになり、取引先が自然と広がっていきました。
【Q】お客様にはどのような業種が多いですか?
約95%が日本料理を提供するホテルやレストランなどの外食企業です。
【Q】日本の伝統工芸品に対して、上海での反響はいかがでしたか?
進出当初は価格が高いということから、簡単に販売できませんでした。さらに、中国には個人経営で安物のコピー品などを作っている業者もたくさんいます。価格競争は激しく、商品の本当の良さを伝えるのに時間がかかりました。
しかし、中国では元々日本料理の知名度があったので、茶碗蒸しの器や、うな丼などに使われる丼など、日本料理を盛り付ける食器に対しての認知は高かったです。中国人が全く知らない商品を販売するよりは営業をかけやすかったです。
【Q】中国人スタッフについてお聞かせください
中国スタッフが製造した越前漆器
中国の自社工場にて越前食器などの商品を製造する場合、最初は日本の職人が現地スタッフに技術指導を行うようにしています。その後、指導を受けた現地スタッフが、他のスタッフへ製造技術を教えることになっているのですが、自分が習得した技術を他の社員へ教えると、自分の仕事が無くなってしまうと勘違いするスタッフも多く、不完全な指導で終わる場合がよくありました。業務の一貫として技術指導を行うということを、理解してもらうのに非常に時間がかかりました。
また、本物のレベルの商品を作るため、技術だけでなく、日本の伝統工芸を大事にすることや、食器にも命があるという職人の考え方を、中国人スタッフに心で理解してもらうようにしています。一人一人の意識が変われば、製品の品質が変わってくるので、一番難しい部分ですが、ものづくりへの思いを伝えることを大切にしています。
【Q】貴社は日本食文化の海外普及を経営理念に掲げられていますが、上海での日本食文化をどのように感じていますか?
富豪層だけではなく、低所得者層にも日本食文化は広く知れ渡っています。今後も、日本食は中国だけでなく、世界中にさらに広がっていくと思います。
海外では最初、日本食は薄味に感じられることもあるかもしれませんが、食べれば食べるほど、繊細な味のとりこになっていくでしょう。中国への日本料理店の進出も、早い者勝ちということもないと思いますし、進出しようと思った時が適切な時期なのではないでしょうか。極端な話、100年後でもチャンスはあるはずです。進出するのが目標ではなく、その後が勝負なので、10年スパンでの勝負と思ってほしいですね。
福井県の伝統工芸である越前漆器の製造・販売を手がけている、株式会社福井クラフトの中国法人。1993年に上海へ進出し、高級ホテルやレストラン向けに高級漆器・食器の製造・販売をしている。自社製造アイテムは3万品を超える。「日本の食文化を世界に広げ、環境保護を考えながら社会に貢献していく」ことを経営理念に掲げ、中国での越前漆器の普及活動に励んでいる。
業種:食器・食品用容器の製造販売 店舗数:2店舗 従業員数:50名
本社所在地:上海市定西路1277号305室
お話:上海支社 総経理 黒田 正俊 氏
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