食の研究所

「煮物は冷めるときに味がしみる」のはなぜか~味付けの基本「さしすせそ」には科学的な理由があった

佐藤 成美(サイエンスライター)  2019年12月24日

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かぼちゃの煮物。

一方、大根やかぼちゃ、じゃがいもなどの野菜は水のうちから煮て、やわらかくなってから調味料を入れる。これらの野菜は、やわらかくなるまでに時間がかかるので、お湯から煮ると、外側はすぐにやわらかくなるが、中は固いまま芯が残ってしまう。そこで、水からゆっくりと煮て、表面が煮崩れするのを防ぐのだ。

また、調味料の入った煮汁の中にこれらの野菜を入れると、浸透圧の作用で水分が抜けて固くなってしまうし、調味料が浸透しにくくなるので、これらも防ぐ。浸透圧とは、半透膜を境にして濃度の異なる溶液があるような状態で、半透膜を通ることができる水が移動して同じ濃度になるときの圧力をいう。濃度の差が大きくなればなるほど浸透圧は大きくなる。きゅうりに塩を振るとしんなりするのは、浸透圧によるもの。この場合、細胞膜が半透膜になる。きゅうりと同じことが鍋の中で起こってしまうということだ。

煮豆を作るとき、豆が固くしわしわになってしまうのも浸透圧の作用によるものである。そこで豆を煮るときは、砂糖は一度に加えず、何回かに分けて入れる。一度に砂糖を入れると、豆の内部の水分と煮汁の濃度の差が大きくなり、豆の水分が抜けてしわしわになってしまうからだ。

また、ふっくらと仕上げるために、豆を戻すときにあらかじめ調味料液に浸してから煮ることがある。豆と煮汁の濃度をあらかじめ同じにしておけば、濃度差が少なくなり、豆から脱水してしわしわになるのを防ぐことができる。

冷めるときに味がしみる

煮物では、食材の組織が壊れれば壊れるほど味がよくしみ込むが、だからといって、煮込み過ぎれば煮崩れてしまう。そこで短時間、加熱して、煮崩れない程度に食品の組織をバラバラにし、火を止めて時間をかけてゆっくりと調味料を浸透させる。温度が高いほうが調味料は拡散しやすいので、できるだけゆっくりと冷まし、高温を維持したほうが味はよくしみ込む。「煮物は冷めるときに味がしみる」とよくいうのはこのことである。

昔からいわれてきた煮物をおいしく作るコツは、じつは科学的な理にかなっている。今年の秋は、科学的な視点を加えて、おいしい煮物を作ってみたい。


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執筆者プロフィール

佐藤 成美(サイエンスライター) 

佐藤 成美(さとうなるみ) サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)、農学博士。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『「おいしさ」の科学』(講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

<記事提供:食の研究所
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