食の研究所

「煮物は冷めるときに味がしみる」のはなぜか~味付けの基本「さしすせそ」には科学的な理由があった

佐藤 成美(サイエンスライター)  2019年12月24日

「調味料の順番」に科学的裏付けあり

20191217_nimonogasameru_fufure01

左から、砂糖、塩、酢、しょうゆ、味噌。
味つけ順に「さ・し・す・せ・そ」とよぶことも。

煮物の味付けの基本の「さ・し・す・せ・そ」はよく知られている。「さ」は砂糖、「し」は塩、「す」は酢、「せ」はしょうゆ(せうゆ)、「そ」は味噌を指し、この順番で調味料を加えると風味よく仕上げることができるといわれる。酢は煮過ぎると酸味が飛んでしまい、同様にしょうゆや味噌も煮過ぎると香りや風味が変化しまう。そのため、酢やしょうゆ、味噌は後に入れる。砂糖を塩より先に入れるのは、砂糖のほうが食材にしみ込む時間がかかるからだ。

煮物の調理では、野菜や肉など食材の組織にたくさん含まれている水分に、煮汁の成分が溶け込んでくる。しかし、食材の細胞膜は、一部の成分は通し、他の成分は通さない「半透膜」なので、もともと自由に移動できるのは水だけだ。そのため、煮汁の成分を溶け込ませるのは容易ではない。

しかし、加熱すると組織が壊れて細胞膜の半透性がなくなり、煮汁の成分が移動できるようになる。食材中の水分と調味液の間には濃度差があることから、一定の濃度になろうとするのだ。これは「拡散現象」とよばれ、このときの移動速度の目安を「拡散係数」という。

拡散係数は、物質の種類や温度、水分の粘性、分子の形や分子量などに左右される。異なる調味料を同時に入れると、多くの場合、相互に拡散速度を遅らせることになる。また、異なる成分の間では、拡散係数は分子量が大きいほど小さくなる傾向がある。たとえば、塩(分子量58の塩化ナトリウム)と砂糖(分子量342のショ糖)の拡散係数を比べると、分子量の小さい塩のほうが拡散係数は大きく、砂糖に比べて約4倍の速さで拡散する計算になる。塩より先に砂糖を入れないと、甘味がしみ込みにくくなるのだ。

このようなわけで、調味料を加える順番が問題になるのである。

魚は沸騰させてから、野菜は水のうちに

20191217_nimonogasameru_fufure02

鯖(さば)の煮付け。

煮魚では、調味料を先にすべて入れ、煮汁を沸騰させてから魚を入れる。これは、うま味を逃がさず、また身が締まって固くならないように短時間で仕上げるためである。沸騰した煮汁の中では、熱によって魚の表面のタンパク質がすばやく固まり、魚のうま味成分を含んだ肉汁が流れ出るのを防ぐことができる。

また、煮汁の量が多いと魚からのうまみ成分の流出が増えてしまうので、煮汁はなるべく少ないほうがよい。そこで、落し蓋を使うと、煮汁が少なくても蓋を伝わって魚の上にまで回り、全体に味を付けることができる。


メニュー管理

執筆者プロフィール

佐藤 成美(サイエンスライター) 

佐藤 成美(さとうなるみ) サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)、農学博士。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『「おいしさ」の科学』(講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

<記事提供:食の研究所
JBpress、 現代ビジネス、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインの4つのビジネスサイトが共同運営する「食」の専門ページ。栄養士が勧める身体にいい食べ 方、誰でも知っている定番料理の意外な起源、身近な食品の豆知識、食の安全に関する最新情報など硬軟幅広い情報を提供。
食の研究所はこちらhttp://food.ismedia.jp/

食の研究所 バックナンバー

おすすめ記事

関連タグ

メルマガ登録はこちら