企業インタビュー
2019年07月12日
形状はまさに、“緑色のイクラ”。その名も『わさビーズ』は、料理にちりばめると宝石のように美しく輝き、プツンと噛めば、わさびの香りとしっかりとした辛味が口中に広がる。2018年10月に業務用途向けに発売され、マカオのホテルなどハイクラスのレストランが次々に採用。また、小売を希望する声に応え、同年12月に一般販売を開始すると注文が殺到し、製造が追いつかない状況に。2019年6月には増産体制が整い、月間約3万個の売上を見込む。
開発したのは、静岡県に本社を置くわさび漬の老舗、株式会社田丸屋本店。R&D部開発課の松永悠佑氏は、「老舗だからこそチャレンジが必要」と語る。
株式会社田丸屋本店の創業は、1875(明治8)年。駅弁やお土産用途の静岡の名産品『わさび漬』を、鉄道の開通当初から販売してきた専門店として知られている。140年余の歴史をもつ老舗企業から、これほど挑戦的な新しいわさび商品が生まれたのはなぜか。もともとの構想は、2009年頃まで遡るという。
R&D 部開発課 松永悠佑氏
「弊社はわさび漬メーカーとして長年歩んできました。近年は、わさび漬の伝統は保ちながら、それ以外の柱も育て、わさび商品の総合メーカーとして発展する機運にあります。わさびの使用シーンを広げ、魅力を再認識できる商品、若年層ふくめより幅広い世代のニーズに応えられる商品をと模索してきたのです。
その中で、“わさびの辛味を何らかの形で閉じ込めたい”というのが、弊社の代表取締役、望月啓行の10年来の思いでした」
田丸屋本店は、同じ静岡の特産品でもある水産物の練り物加工品メーカーともつながりが深い。わさび味のカマボコやちくわの開発依頼がある中で、「商品全体がわさび味なのではなく、噛んだところだけ辛味を感じるものがあれば面白い」と開発を進めていたという。
だが、わさびの辛味は揮発性で、熱や水に弱いという特性がある。カプセル状のもので辛味を包むというアイデアはあったものの、実現は技術的に難しかった。
「カプセルなら、と当初はオブラートのメーカーに頼んだのですが、『無理です』と断られました。その後、たとえばキューブ状など、さまざまな形状を検討した結果、最終的に球状にたどり着きました。
次のページ: 着色料不使用、自然の色素で鮮やかさを生み出す
>> もっとみる