食の研究所

革命的ゴボウ「サラサラごんぼ」はなぜ生まれたのか~世界で唯一の発展を遂げた根菜の物語(後篇)

漆原 次郎(フリーランス記者)  2019年06月24日

同試験場では、それまでにもトンネル被覆なしで、葉つきの若掘りゴボウを収穫できるよう、「てがる」という品種の種子を低温処理する方法を編み出していた。だが、この品種の根は先細りするため、形状的にはよくない。農家は若掘りゴボウの従来品種「渡辺早生」を使いつづけた。

つまり、「渡辺早生」の形のよさなどの特徴はそのままに、「てがる」のトンネル要らずの便利さを加えられれば、画期的なゴボウが誕生する。「人手も費用もかからない品種の開発を目標に取り組んできました」(柴戸氏)

ゴボウの「人工交雑育種」に初めて挑む

201906_goboh02

(上)ゴボウの花。(中)開花のしかた。
(下)同じ個体における花の部位別の開花状況。
葯筒は、花粉が作られる葯(雄しべの一部分)が筒状に
なったもの。柱頭は、雌しべの先端。(写真提供:福岡県
農林業総合試験場/参考:2016年3月発表「トンネル被覆が
不要な冬春どり若掘りゴボウ新品種『サラサラごんぼ』の育成」
『福岡県農林業総合試験場研究報告』第2巻)

さまざま作物の育種では、遺伝的特徴の異なる個体どうしを授粉させる「交雑」が盛んに行われている。だが、ゴボウに限っては人の手による交雑育種がされてこなかった。

「親の遺伝的特徴の情報が少ないうえに、時間もかかる」(柴戸氏)などのリスクに加え、ゴボウの花のつけ方も壁となっていた。

「ゴボウは小さな花をたくさんつけるのですが、それらの小花には花粉もついています。交雑するには、自ら受粉してしまう前に人工授粉させる必要がありますが、花粉のついている雄しべを早い段階で取り除き、別の花粉を雌しべにつけるには、とても苦労が要るのです」

爪楊枝の先端ほどの小花ひとつずつを相手に、花粉の詰まった雄しべを破らずまるごと取り除いていく必要がある。この作業に同試験場の姫野修一氏が挑んだ。医療用ハサミを駆使し、「渡辺早生」の3花だけを残し、その3花の花粉が入った雄しべも取り除いた。そこに「てがる」の花粉をつけていく。こうして2003年に人工授粉を成功させた。ゴボウの育種に人工交雑を用いるのは「知っている限りでは初めて」(柴戸氏)という。

その後は、両親から生まれた次世代の個体の中で、新品種に見合う特徴を持った個体を選抜する作業を繰り返した。2003年から足かけ10年。途中では、花が咲かない事態にも見舞われるなどしたが、それも乗り越え、約3万個体の中から選ばれし1個体を新品種に登録出願した。新品種「サラサラごんぼ」だ。20159月に品種登録された。

執筆者プロフィール

漆原 次郎(フリーランス記者) 

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。

<記事提供:食の研究所
JBpress、現代ビジネス、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインの4つのビジネスサイトが共同運営する「食」の専門ページ。栄養士が勧める身体にいい食べ方、誰でも知っている定番料理の意外な起源、身近な食品の豆知識、食の安全に関する最新情報など硬軟幅広い情報を提供。
食の研究所はこちらhttp://food.ismedia.jp/

食の研究所 バックナンバー

おすすめ記事

関連タグ





メルマガ登録はこちら