食の研究所

重イオンビームに陸上養殖、「ワカメの革新」進む~日本の縁深き海藻、その歴史と現在(後篇)

漆原 次郎(フリーランス記者)  2019年04月25日

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イオンビーム照射により得られた有用変異体候補(M2)の生長。
(理化学研究所広報誌『RIKEN2016』記事をもとに筆者作成)

一方、実用の面でも、地域系統からの選抜による育種のための利用が進んでいる。理研食品が岩手県広田湾漁業組合の協力で得られた当地のワカメを選抜し、早生系統や晩生系統などの養殖を行っているのだ。早生では、「新芽ワカメ」として収穫できるサイズまで成長した。晩生についても、通常のものより大型化することができた。

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田湾で養殖した種苗別のワカメの成長と形態。「R1」は早生系統種苗、「R2」は晩生系統種苗、
「R2促成」はR2系統のうち促成種苗を生産して1月中に養殖を開始したもの。(写真提供:理化学研究所)

産業の創出と、研究の発展と

ワカメ育種研究の先には、ワカメ産業の創出がある。

理研食品は20177月、宮城県名取市閖上(ゆりあげ)に研究拠点「ゆりあげファクトリー」を開設。 浮遊回転式陸上養殖装置を用いて、前述の地域系統からの高成長株の選抜によるワカメの収量増や、早生と晩生を用いた二期作の実現などに向け、技術開発を進めている。宮城県南三陸町などの三陸沿岸を中心にワカメ種苗の提供を始めており、実際の養殖生産に活用されている。

また、名取市では漁業生産の多角化を目指した「ゆりあげワカメプロジェクト」が始まり、地元の漁業者たちによる試験的なワカメ養殖が行われている。同地域で初となるワカメ養殖産業が実現しそうだ。

「今後も、企業の方たちによって、新技術で誕生したワカメを市場に出すための工夫がなされていくと思います」(阿部氏)

研究も引き続き発展していく。

「私たち理化学研究所としては、ワカメのゲノム解析を進めて産地を特定できる方法を確立したり、また、ワカメ以外の海藻に育種技術を応用したりといったことで、今後も研究を進めていきます。多くの人にこうしたワカメや海藻を食べてほしい」(阿部氏)

現代に入って確立したワカメの養殖。そこに、新たな研究成果と技術が注がれ、ワカメの作り方、そして食べ方をめぐる多様化が一気に進もうとしている。実のところ、私たちとワカメの関係は、いま加速的に深まろうとしているのだ。

執筆者プロフィール

漆原 次郎(フリーランス記者) 

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。

<記事提供:食の研究所
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