食の研究所
漆原 次郎(フリーランス記者) 2018年08月20日
日々の食事のあり方は、将来における自分の認知機能や精神状態にどう影響するのだろうか――。そんな疑問の答えを、多くの人を長期にわたり追跡調査することで健康や病気の原因などを究明していく手法「コホート研究」に求めている。
前篇では、日本の代表的なコホート研究のひとつ「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究」(NILS-LSA:NationalInstituteforLongevitySciences-LongitudinalStudyofAging)を実施してきた同センターNILS-LSA活用研究室室長の大塚礼氏に、「脂肪酸の摂取量」と「認知機能低下のリスク」の関係などについて聞いた。
脂肪酸には魚に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA:DocosaHexaenoicAcid)などの長鎖脂肪酸、また、ココナツに多い中鎖脂肪酸、さらに牛乳・乳製品に含まれる短鎖脂肪酸などがあるが、これらの脂肪酸を摂取するほど将来の認知機能低下リスクを低く抑えられる傾向があるという。
さらに、NILS-LSAからは独自の成果が上っている。後篇では、「さまざまな食品を食べること」と認知機能の関係を中心に、引き続き大塚氏に話を聞くことにしたい。具体的な数値をもって「食品摂取の多様性が認知機能低下リスクを抑える」という効果を見出だせたという。
【Q】前篇では、魚に含まれるDHA、さらに牛乳・乳製品に含まれる短鎖脂肪酸などの脂肪酸全般について、摂取するほど認知機能低下のリスクを抑えられるという結果になったと聞きました。他に、NILS-LSAのコホート研究で着目したことはありますか?
大塚礼(おおつか・れい)氏。国立長寿医療研究センター
NILS-LSA活用研究室室長。博士(医学)。1998年、東京水
産大学(現・東京海洋大学)卒業後、食品メーカーで食品
衛生管理者として品質管理に従事。その後、公衆衛生学を
志して名古屋大学大学院に進学、2004年、名古屋大学大学
院医学系研究科修士課程修了。2007年、同博士課程修了。
日本学術振興会特別研究員を経て、2009年、国立長寿医療
センター研究所疫学研究部栄養疫学研究室長に。2010年、
国立長寿医療研究センター予防栄養研究室長。2013年より
現職。
大塚礼氏(以下、敬称略)60歳以上の男女とも、穀類の摂取量が多い人ほど認知機能が低下しやすくなることが分かりました。調査の一例を言うと、1日あたり穀類の摂取量が1単位(108グラム)増えると、男性では1.18倍、女性では1.43倍、認知機能が低下するリスクが高くなることが分かったのです。特に女性では、教育歴など認知機能に強く関連する要因の影響を除いても、穀類摂取量が増えると、認知機能が低下しました。
前篇では牛乳・乳製品の摂取が認知機能低下リスクを抑えるとお話しましたが、牛乳・乳製品のそうしたプラス面の影響より、穀類のマイナス面の影響のほうが強いということも分かりました。
【Q】穀類を材料とする食品にはいろいろありますが、どんな種類の食品が認知機能低下リスクとどのくらい関係するかも分かるのでしょうか?
大塚 はい。NILS-LSAでは、協力者たちに食べたものを網羅的に書いていただくので、穀類の食品でも、どんな種類のものが認知機能低下リスクと関係するかまで分かります。
【Q】どうでしたか?
大塚 解析したところ、特に、うどんや冷や麦など、麺類の摂取量が多い人で認知機能低下リスクが高くなるという関係性が見られました。一方で、コメについては関係は見られませんでした。
1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。
<記事提供:食の研究所>
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