食の研究所
佐藤 成美(サイエンスライター) 2018年02月28日
日本鶏は観賞用や闘鶏用などとして、たくさん品種がつくられてきたが、そもそも日本には鶏は存在していなかった。いつ日本に伝来したかは定かではないが、おそらく朝鮮半島経由で鶏が伝来し、少なくとも弥生時代後期には地鶏の祖先が飼育されていたようだ。
その後、中国から現在の「小国鶏(ショウコク)」の祖先が、また江戸時代にはタイから「大軍鶏(オオシャモ)」、ベトナムから「矮鶏(チャボ)」、中国から「烏骨鶏(ウコッケイ)」の祖先がやってきた。日本人はその鶏を食用ではなく、観賞用として珍重した。
盛んに鶏が飼育されたのは、江戸時代の後期のこと。そのころは朝顔やツツジの栽培、鈴虫や金魚などの観賞用生物の飼育も盛んだった。金魚や朝顔などでは品種改良を重ね、色や形の異なる新品種を楽しんだのと同様に、鶏も新品種がつくられた。
明治維新以降、日本人が鶏肉を食べるようになると、観賞用の鶏は徐々に衰退していった。さらに1960年代以降、米軍からブロイラーがもたらされると、鶏肉は広まり、庶民の味になった。いま、私たちが鶏肉を安く、おいしく食べられるのはブロイラーのおかげなのである。
世界には250種以上の鶏がいるが、そのうち50種は日本鶏だ。多様な姿かたちに特徴があり、うち15種と2グループは天然記念物に指定されている。
「こんなにたくさんの品種があるのは、日本人の美意識の高さからでしょうね」と話すのは、広島大学大学院生物圏科学研究科教授で鶏を研究する都築政起さんだ。第二次大戦以降も趣味で観賞用鶏を飼育する人はいたのだが、近年では飼育する人の高齢化が進み、その人が亡くなると廃れてしまう品種も出てきた。
そんな状態に危機感を感じた都築さんは、貴重な鶏の飼育保存を始め、2010年には「広島大学・日本鶏資源開発プロジェクト研究センター」を立ち上げた。今では、特別天然記念物のオナガドリをはじめ、上記の天然記念物を含む日本鶏35品種、さらに貴重な外国種も加わり50種以上が保存されている。貴重な鶏がこれだけ揃っている施設はここだけだ。
佐藤 成美(さとうなるみ) サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)、農学博士。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『「
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