食の研究所
漆原 次郎(フリーランス記者) 2017年05月17日
調味料は人の味覚などに働きかけ、食べもの風味を引き立ててきた。中でも、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味とある基本味のうち、主に酸味の部分を担い続けてきた調味料といえば「お酢」だ。
小皿にお酢を垂らすのは餃子を食べるときぐらいで、同じ使い方であれば醤油よりも頻度は低い。だが、すし、酢あえ、酢漬けと、混ぜたりあえたりする料理で、酢は大切な役目を果たしてきた。「食べものを締めたい」あるいは「保たせたい」といった人びとの求めに長らく応えてきたのだ。
今回は、そんな調味料の名脇役ともいえる「お酢」をテーマにしたい。前篇では、日本におけるお酢の歴史を追い、調味料としての役割をいかに果たしてきたかを見ていく。そして後篇では、近年、注目が集まっているお酢と健康の関係について、210余年にわたりお酢を造り続けてきた企業の開発技術担当者に、見えてきたお酢のさまざまな効果を聞くことにする。
お酢は「苦酒、加良佐介(からざけ)」とも呼ばれ、酒造りとの関わりがとても深い。大まかにいうと、酒の延長線上にお酢がある。穀物などを発酵させて酒を造り、そこに酢酸菌を含む「種酢」を加えてさらに発酵させるのだ。アルコールが分解されていくとともに酢酸が増えていき、さらに熟成させると風味の立つお酢になる。
世界では、酒の造られるところでお酢が造られてきた。日本には5世紀ごろ応神天皇の代に、大陸から酒の醸造法とともに伝わったとされている。平安時代の律令の施行細則『延喜式』には、米、醤(ひしお)の類である蘖(よねのもやし)、それに水を使って毎年6月に仕込むと記されている。
万葉集でも、歌人の長意吉麻呂(ながのおきまろ)により、お酢が詠まれている。
「醤酢(ひしおす)に蒜(ひる)搗(つ)き合(か)てて鯛願ふ われにな見せそ水葱(なぎ)の羹(あつもの)」
野びるを刻んで醤やお酢で鯛を食べたかったのに、水葱の吸いものなんて出さないでくれよ、ということだ。当時も高級食材だった鯛に、味噌や醤油の源流にあたる醤、それにお酢が調味料として使われていたことがうかがえる。お酢は、宮廷用のみならず早くも奈良時代から市で売り買いされていたともいう。
1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。
<記事提供:食の研究所>
JBpress、現代ビジネス、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインの4つのビジネスサイトが共同運営する「食」の専門ページ。栄養士が勧める身体にいい食べ方、誰でも知っている定番料理の意外な起源、身近な食品の豆知識、食の安全に関する最新情報など硬軟幅広い情報を提供。
食の研究所はこちらhttp://food.ismedia.jp/
>> もっとみる