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障害者が地域農業の担い手、売り上げ拡大の農園も~広がりつつある「農業」と「福祉」の連携(後篇)

白田 茜(フリーランス記者)  2016年10月25日

濱田健司氏(JA共催総合研究所研究員)の著書『農福連携の「里マチ」づくり』(鹿島出版会)によると、同園の取り組みのきっかけは、求人に障害者が応募してきたことだった。最初は短期間の農業体験だったという。園主の鈴木厚志氏は、「パートさんたちが彼らをサポートしてくれるという、予想もしなかったことが起き(中略)、職場の雰囲気もよくなった。その結果、作業効率が上がった」と述べている。

その後は“ビジネスパートナー”として定期的に障害者を雇用している。現在、従業員は社員・パートを合わせて60名で、うち障害者22名を直接雇用しているという。鈴木氏は「いままで自分たちがやってきた業務を一つひとつ見つめ直し、何をしているのかを体系化・可視化することで、誰でも農業に参画できるようにした」と話している。

一部の人の経験や勘に頼っていた農業を、誰にでもできる“ユニバーサル農業”に。同氏は「農園の経営を引き継いだときは、年間の売上は6500万円くらい。(中略)それから20年、障害者を1年に1人ずつ雇用してきて、売上もいまでは2億9000万円までになった」と語っている。

認定農業者として本格的に営農――福井県「ピアファーム」

2つ目は、福井県あわら市にあるNPO法人「ピアファーム」。吉田氏の前出記事によると、社会福祉法人「コミュニティネットワークふくい」から2008年に独立する形で設立された。認定農業者となって本格的に営農を行っている。

設立前は、近隣農家の梨栽培の作業を受託していたが、設立を機に農家から樹園地を借り受けて自ら梨の生産・販売を行うようになったという。その後、ブドウ栽培を開始し、アスパラガス、にんじん、さつまいもなどの野菜の露地栽培やハウス栽培も行い、栽培面積を拡大していった。

吉田氏によると、「ピアファームの経営耕地面積は2010年には2.7haだったのが、2014年には7.3haまでに拡大している」。さらに、「認定農業者となることで(2011年)、福祉関係の補助金だけでなく、農業関係の補助金、融資も積極的に活用し、耕作放棄地となっている農地を上手く再生して経営面積を拡大している」という。

ピアファームは155戸の農家と契約して農作物直売所を経営しており、梨やブドウの商品開発、それに観光ブドウ農園の開設など、さまざまな事業と組み合わせることで収益性を高めている。

同氏によると、2014年度にはピアファームが生産している農作物の総販売金額は2100万円、また農産物直売所などでの販売金額は1億1000万円だという。現在、25名の障害者、27名の職員を雇用している。

執筆者プロフィール

白田 茜(フリーランス記者) 

白田 茜(しろた あかね) 1978年佐賀県生まれ。 佐賀県庁で食品のブランド化に関わる。その後、大学院で農業政策や食品安全に関するリスクコミュニケーションを学ぶ。
食品コンサルタント会社を経て、現在は社会的関心が高い科学ニュースについて専門家のコメントを収集しジャーナリストに提供する活動をしている。関心のあるテーマは、農業、食品流通、食品安全、リスクコミュニケーション。

<記事提供:食の研究所
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