企業インタビュー
2016年01月13日
日本の食卓から干物離れが進む中、100年以上の歴史をもつ干物メーカー、有限会社ヤマカ水産が手掛ける新しいタイプの干物が注目を集めている。三ツ星レストランで修業経験を持つシェフと共同開発した干物『Pecheur(ペッシュール)』だ。
干物というと“和食”や“日常”というイメージが強いが、ペッシュールのコンセプトはパンやワインなどと合わせて特別な日に食べる、というもの。この新ジャンルの干物に込められた熱い思いと開発秘話を、同社の専務取締役である小松寛さんにうかがった。
ヤマカ水産の創業は大正元年(1912)。駿河湾と富士山を望む自然豊かな静岡・沼津の地で、イワシやサバを使った煮干の加工会社として誕生した。全国的に「干物の産地」として知られる沼津には、最盛期は300軒近い干物製造の会社があったが、現在は100軒ほど。魚の水揚げが年々減っていることや、需要の減少が原因だという。
一般的に沼津の干物の原料には、地場産ではなく九州や海外で水揚げされた魚が使われている。それを1匹ずつ手開きして製造するが、消費者が見る限り機械開きのものと相違を見つけるのは難しい。
「手開きは職人的な技術が必要ですが、市場(しじょう)ではなかなか評価されにくいのが実状です…。また、原料の魚は他地域のものが多く、地域性が出せるものでもありません。このままでは、沼津の干物はどんどん衰退していくのではないかという危機感を感じていました。他地域との差別化を図り、これぞ“沼津の干物”と呼ばれるオリジナルの干物商品を作りたいと思ったのです」
そんな時、とある勉強会で増井靖丈シェフに出会う。増井シェフは食の世界に30年ほど携わり、修業時代は三ツ星レストランで働いた経験を持つ。フランスの食文化を日本に伝えているという功績から「シュバリエ勲章」を受賞したこともある名シェフだ。
ペッシュールでは、今までにない新しい干物をめざした
静岡出身で地産地消を推進する増井シェフと小松さんは、すぐに意気投合した。
「増井シェフは漁師の息子さんだったこともあり、“干物業界全体と一次産業(漁師)を活性化させたい”という私の思いをすぐに受け入れてくれました。そして、今までにない新しい干物を作ろうと提案してくれたのが、『ペッシュール』でした」
次のページ: 名シェフと共同開発したのは、「特別な日に食べる干物」
>> もっとみる