飲食業経営ノウハウ
2022年11月29日
公開日:2021年05月14日 最終更新日:2022年11月29日
飲食店の店舗調理にかかるコストや工程を減らすための取り組みとして見直されているセントラルキッチン。セントラルキッチンを導入することで製造拠点を集約できるため、店舗での調理工程や人件費を減らし、衛生管理を容易にすることが可能である。
そこで今回は、セントラルキッチンの仕組みとメリット・デメリット、店舗の規模や業態に合わせた導入方法などを紹介する。
セントラルキッチン(Central Kitchen)とは、飲食店で提供するメニューの製造や加工を1ヶ所に集中させる拠点のこと。多店舗展開する飲食店などは、調理作業の効率化や負担を軽減するためにセントラルキッチンを導入するのが一般的だ。セントラルキッチンで調理したものを冷凍や真空パックで保存し各店舗に配送することで、店舗ごとに行っていた調理や仕込みのコストを減らすことが可能となる。
セントラルキッチンでの調理に向いているものは、配送などの手間がかかるため、保存しやすく時間をおいても劣化しにくい食品を取り扱うことが原則だ。パンや麺類、カレーやパスタソース、冷凍保存のしやすいデザート類などが典型だろう。
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セントラルキッチンの導入でどんなメリットがあるのだろうか。詳しく解説していく。
メニューの品質が安定する
複数の飲食店を経営している場合、それぞれの店舗で調理を行うと、設備や従業員によって味や提供量にばらつきが出てしまいがちだ。こうしたメニューの品質の差は、店のブランド力そのものを落とす要因になりかねない。
そこで活用できるのがセントラルキッチンだ。同施設では各店舗で行う調理作業を一手に引き受けられるため、どの店舗でも一定の品質を保つことが可能となる。
特にフランチャイズ展開も行なっている飲食店は、同一ブランドの店舗数が多くなり品質管理が大変だ。店舗ごとに調理をしていては、どうしても味にムラが出やすくなってしまうため、ひとつの場所に集約させたほうが品質も安定しやすい。
また自社で独自開発した秘伝のレシピなどは、できる限り外部に漏らしたくない情報のひとつだが、フランチャイズ加盟店などへある程度のノウハウ共有も必要となる。セントラルキッチンを導入して調理済みの食材を配送すれば、レシピの流出も防ぐことが可能だ。
店舗の人件費を削減できる
各店舗で実施する調理作業をひとつの場所にまとめることは、仕入れや調理、人件費などの様々な部分でコスト削減につながる。
例えばセントラルキッチンでは、これまで各店舗で必要となっていた食材の仕入れをまとめて行うため、一度の発注量が多くなり安価に材料を仕入れやすい。各店舗で揃える調理器具や設備などが最小限に抑えられるので、新しい店舗を展開する際の出店コストも大幅に削減できるはずだ。
ただし大量発注により、食材ロスも増えやすい点には気をつけたい。徹底した在庫管理が必須となるだろう。
またセントラルキッチンから配送された食材は、冷凍保存や真空パックによるものが多い。各店舗では届いた食材の解凍や盛り付けのみとなるので、調理作業に必要な人件費も抑えられる。作業自体も簡易化され、パートやアルバイトスタッフへの教育コストも少なくなるだろう。
加えて各店舗の調理場のスペースを減らせる分、小規模物件でも飲食店を展開しやすい。固定費を抑えられるだけでなく、飲食店として出店しにくいエリアにも進出することが可能となる。
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衛生管理がしやすい
飲食店が食中毒などの健康被害を出してしまうと、一気に信用が失われ経営の存続が難しくなる。当然ながら、衛生管理には何よりも気をつけなければならない。しかし店舗が増えて従業員の数が増えるほど、人為的なミスやトラブルの可能性が高くなるため、衛生管理の徹底は難しくなる。
セントラルキッチンは、そうした衛生管理の観点からも導入するメリットが大きい。調理場が1ヶ所に集約されているため、食材の納入・保管や調理工程などで品質チェックを実施しやすくなるからだ。
ただ調理拠点が1ヶ所に集中することは、食中毒などの問題が起きた際にすべての店舗に影響を及ぼす。衛生管理が行き届かなければ、問題が発生した際のリスクが高まることも頭に入れておきたい。
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一方でセントラルキッチンの導入は、デメリットになることもある。具体的にどんなことに気をつければいいのか見ていこう。
初期投資に費用がかかる
まずセントラルキッチンの導入には、新たな物件や運搬車、調理設備や器具などを用意しなければならない。施設の規模にもよるが、どれも必要なものなので初期投資として多くの費用がかかる。
例えば規模の小さいキッチンの場合でも、物件の取得や設備譲渡で100〜300万、設備の追加や改修などで100万程度。トータルすると400万円ほど掛かる計算である。加えて運搬車や調理器具などを一から揃えると、500万円を超えることも多い。
少しでも初期費用を抑えるには、良い物件が見つかるまで粘り強く探すことだ。以前のテナントで利用されていた設備や物品などを残したまま物件の売買や貸し借りを行う「居抜き物件」も初期費用の削減につながるだろう。これはある程度の期間がかかる覚悟をしておかなければならない。日頃から空き物件がないか、常にアンテナを張っておくことも重要だ。
ランニングコストもかかるため、一定の稼働率が必要
セントラルキッチンは、各店舗の調理設備を1ヶ所に集約させるため、施設としての規模も大きくなりがちだ。規模によってそれなりのランニングコストなどがかかるため、ある程度の稼働率がないと非常に効率が悪くなる。
小規模な店舗を2〜3つしか展開していないのであれば、セントラルキッチンよりも各店舗で調理するほうがコストパフォーマンスが高いこともある。最近ではバーチャルレストランとして自社キッチンの稼働を高める取り組みもある。
セントラルキッチンで大量調理したものを販売しきれる店舗数がなければ、コストが上がるだけでなく食品ロスの増加にもなってしまう。各店舗で必要となる食材の需要と、セントラルキッチンで供給するバランスを正確に把握し、製造量を管理しなければならない。
またセントラルキッチンでは、調理した食材の配送コストも発生する。そのため、近くの配送業者と提携するなどでコストを抑えられると、セントラルキッチンを導入するメリットも大きくなるだろう。
食材配送時の品質を維持する工夫が必要
セントラルキッチンでは、一度調理したものを各店舗に配送するという工程が入る。そのため各店舗へ運搬する際に、しっかりと食材の品質を保てるようなノウハウを構築しなければならない。
例えば、急速冷凍による保存なら食材の鮮度が落ちにくいと言われている。保存では食材が劣化しないよう、常に最適な温度管理を行う、冷凍焼けを防ぐために空気に触れないような食品の包装(真空包装)などが必要となる。
またすべての調理を実施するのではなく、仕込み作業といった手間や時間の掛かる工程のみをセントラルキッチンで行うなど、作業工程を分けるのもひとつの方法だ。例えばサラダなどの鮮度が落ちやすい食材は、できるだけ各店舗で調理したほうが良いといえる。
セントラルキッチンを始める際は、まずどの程度の規模でスタートすればいいのか悩むところだ。計画通り店舗数を増やせられれば、比例してセントラルキッチンの稼働率も高くなっていく。スタート時の製造能力に限界を迎えると、設備を入れ替えるなどしてセントラルキッチン自体の規模を大きくしなければならない。
だからといって、いきなり大規模なセントラルキッチンで始めるのはリスクが高い。そこでセントラルキッチンを導入する際には、最初に小規模で展開した後、売上や需要の増加に応じて規模を拡大させる「スモールスタート」が推奨される。
運用を始める際は、まずセントラルキッチンで作る予定となる食材を選定する。主に店舗だと調理する手間がかかり、大量調理しやすいタレやスープなどの仕込み作業が向いている。そしてセントラルキッチンにおける製造から配送までを想定し、調理後の食材管理や保存を各店舗の厨房などで試験的に行う。
ある程度のノウハウを構築できたら、より効率的な設備の導入や作業スペースのレイアウトを見直す。こうして徐々に改善することで、少ないリスクでセントラルキッチンの拡大に取り組める。
コロナ禍の影響で客足が遠のいている現状では、飲食店を存続する上でさらなるコスト削減を実現したい、という声も多いだろう。そこでセントラルキッチン内においても、コスト削減につながる仕組みづくりや工夫が求められている。
作業標準化で人件費を削減
例えば、調理業務のマニュアル化などにより、経験の浅いスタッフでも作業しやすい仕組みを作る。こうすることで正社員ではなくパートやアルバイトなどの比率を増やせるため、人件費の削減にもつながる。
セントラルキッチンの外注化(OEM)
通常だと自社で物件や設備、人員などを備えなければならない。だが製造そのものを他社に外注すれば、初期費用やランニングコストを抑えられる。最近では細かい要望に対応してきており、小ロットでの注文も可能という事業者もある。店舗数の少ない飲食店や個人経営の店舗でも、セントラルキッチンの恩恵を受けられる。
ただし外注化や非正規雇用によるコスト削減は、料理の味や品質の低下を招いてしまうリスクも伴う。企業の利益アップや経営維持に何が必要なのか、しっかりと検討した上で取り組みたいところだ。
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セントラルキッチンは、各店舗で提供される食材を一手に担うため、毎日の仕入れ量も多くなりがちだ。食材ロスを削減するために、仕入れ数量を把握する仕組みづくりが必要だ。また、各店舗からセントラルキッチンへの食材発注や配送、納品数量を管理するにしても、エクセルへの手入力やFAXといったやり方では事務作業の効率が悪く現実的ではない。正確かつ効率的に管理するために、受発注や仕入れ管理向けのシステム導入は検討しておきたい。
また、コロナ禍の影響で客数が減っている今、セントラルキッチンを導入しても安定的に稼働させられないリスクもある。そこでセントラルキッチンを拠点として、宅配サービスを展開する「ゴーストキッチン」や「バーチャルレストラン」へ参入するという選択肢もある。
いずれにしても、多店舗展開する飲食店にとって製造拠点を1ヶ所に集約させることはメリットが大きい。飲食店の業態や規模に見合ったセントラルキッチンの導入を検討してほしい。
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