飲食業経営ノウハウ
株式会社船井総合研究所 フード支援部 部長 上席コンサルタント 二杉明宏 2019年08月14日
前編では外国人観光客の集客方法を解説した。次の対策は、来店時の接客対応だ。外国人観光客は言語や文化、価値観が日本人と異なる。インバウンド対応の大前提として頭ではわかっていても、実際に店舗でその違いを目の当たりにすると驚くことも多い。言葉が通じないお客をどう接客すればよいだろうか。この場合、電子機器やボードなどのツールを活用してもてなすことが現実的だ。具体的にどうすべきかみていこう。
監修:株式会社船井総合研究所 フード支援部 部長 上席コンサルタント 二杉明宏氏
何かを聞かれても言葉が通じない外国人観光客は、店のスタッフにとっては面倒な客となり、ぞんざいな対応になることがある。外国人側からすれば客扱いされていないと感じ、クチコミの評判はマイナスになる。
(参照:観光庁「訪日外国人旅行者の受入環境整備における
国内の多言語対応に関するアンケート」結果)
よくトラブルの例に挙げられるのが、居酒屋のお通しだ。外国人客からすると、注文してもいない料理が出てきたうえに代金も取られたという印象になる。
馴染みのない食券も、注文の仕方が分からず困ることが多い。お互いの国の習慣を知らないために生じるトラブルは、店側の情報提供で防げる。
日本では当たり前の習慣でも、改めて外国語に翻訳して店内やメニューページへ記載するほか、翻訳アプリや、会話の同時通訳をする「POCKETALK」のような電子機器なども上手に使いたい。
訪日外客数の国籍割合(2018年)
〔参照:日本政府観光局(JNTO)〕
その際、まず決めるのは対応言語の優先順位だ。外国人観光客の国別割合をみると、最も多いのは中国。次いで、韓国、台湾、香港と続く。台湾と香港は英語も通じる場合が多いため、多言語対応の優先順位は英語、中国語、韓国語となる。
なお、台湾人は簡体字と呼ばれる中国語も理解できるものの、日常で利用しているのは繁体字だ。店舗やクチコミサイトで繁体字の表記をすると、台湾人は「自分たちのためにわざわざ表記を使い分けてくれている」と捉え、満足度が上がる。日本流の手厚いおもてなしは、言語対応でも発揮できるのだ。どの国の観光客や言語に対応すればいいか、店のインバウンド方針と照らし合わせて検討してほしい。
インバウンド対策でまず思い付くのが、メニューの外国語対応だろう。だが、メニューの翻訳は意外に難しい。たとえば、焼肉屋の内臓系メニュー。日本人にとっては食文化として受け入れられているが、外国人には小腸、心臓、胃など、ダイレクトな翻訳が並ぶと、ややグロテスクな印象を与えてしまうため注意が必要だ。外国出身の従業員が店舗にいたら、違和感がないか添削してもらおう。
牛ミノ | |
---|---|
△ | Beef First Stomach |
○ | Beef Tripe |
親子丼 | |
△ | Chicken and Egg Don |
○ | Donburi Bowl of Rice Topped With Chicken, Eggs, and Onions |
豚肉の生姜焼き | |
△ | Grilled pork ginger |
○ | Pork Slices Sautéed with Ginger |
どの国の言語に対応するかは、店舗のエリアに訪れる外国人観光客や店の業態、方針によって選択がわかれるところだろう。
また、すべてのメニューを翻訳するかどうかも、店の方針として決めておくとよい。食の好みは国によって違い、日本人好みに作られた料理を外国人は好まないというケースもある。もちろん、その反対も然りだ。
一案として、すべてのメニューを翻訳するのではなく、中国のお客様向け、タイのお客様向け、英語圏のお客様向けなどとメニューを分けてもいいだろう。
店舗の運営効率もよくなり、外国人観光客には〝おもてなし〟と受け止められる。さらに、経営的な見方をするなら、日本人客があまり注文しないような単価の高いメニュー作りをすることで、収益性も望める。
外国人観光者は、多少高額でも上質な料理を楽しみたいと考える傾向にある。日本での食事は、観光地巡りと同様にハレの体験だからだ。
次のページ: 翻訳だけじゃない、飲食店に必須のキャッシュレス対応
同志社大学大学院法学研究科卒業後、2000年、船井総合研究所に入社。飲食業専門コンサルタントとして、10以上の業種で活動。業態開発、新規出店、多店舗展開などを得意とする。ローカルチェーンからナショナルチェーンまで、支援先企業は年商1億~700億円と幅広い。
船井総合研究所フードビジネス専門サイト『フードビジネス.COM』/お問い合わせ・無料経営相談
>> もっとみる