食の研究所

科学が進んだ未来、人の食生活はどうなっているのか 『「食べること」の進化史』で食の未来を予想する

漆原 次郎(フリーランス記者)  2019年07月22日

「趣味ダイエット、特技リバウンド」の現代人

食と健康の関係性は強い。食の個別化が進んだ未来社会では、個人の健康状態などのデータと人工知能(AI)を活用し、その個人にとっての理想的な食が得られるようになるかもしれない。これは、一歩先に個別化が進もうとしている医療の今後のあり方とよく似ているように思える。

一方で、私たちヒトの体の進化は、技術の進化とは比べようもないくらい遅い。過去の飢餓の時代に機能していた体重を維持する仕組みは、現代の飽食全盛の時代において多くの人びとには無用の長物となってしまった。現代人を「趣味ダイエット、特技リバウンド」と著者は表現する。言い得て妙だ。

これからの人類も、現代の課題である肥満を抱えていくことだろう。この課題に対しても、人間の意識を先回りする「見えない医者」や「見えない管理栄養士」が私たちの健康維持をサポートすると著者は期待を寄せている。

栄養補給という点では、人間に必要な栄養素をすべて配合した合成食品「完全食」が世に出始めた。米国Rosa Labsの「ソイレント」、日本企業コンプの「COMP」などだ。従来からあるサプリメントは文字どおり日常の食事では不足しがちな栄養成分を「補助」する食品だが、完全食となれば機能的には日常の食事に取って代わるものになりうる。

技術は進むが、人間の心は・・・

こうして食を巡る未来の状況を見ていくと、科学が裏打ちし、技術が用意したプロトコルに従って人間が食生活を送りさえすれば、食への思考を放棄しても生きていけそうな感もしてくる。でも、そうだろうか。筆者(私)にはそう思えないし、著者もそうは考えていまい。

たとえ、食の完全管理化が可能になったとしても、その食によって人間の心がすべて満たされることは決してないだろう。食は「生きるためのもの」にとどまらないからだ。

筆者(私)もそうだが「食べるために生きている」人間も多くいる。また、著者も本書で重要な指摘をしているとおり、食は「人となり」を作るし(逆に人が「食となり」を作るともいう)、食は「人と社会とをつないでいる」ものでもある。

技術の進歩により、人間がより人間らしく生きるようになる時代がやってくるとよくいわれる。その「人間らしく」のなかに「食べる」という行為は入っている。食を巡る科学や技術はこれまでより加速しようとも、食べることに対する人間の心は過去から現在にかけてと比べて、さほど変わらないのではないか。

 

執筆者プロフィール

漆原 次郎(フリーランス記者) 

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。

<記事提供:食の研究所
JBpress、現代ビジネス、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインの4つのビジネスサイトが共同運営する「食」の専門ページ。栄養士が勧める身体にいい食べ方、誰でも知っている定番料理の意外な起源、身近な食品の豆知識、食の安全に関する最新情報など硬軟幅広い情報を提供。
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