食の研究所
漆原 次郎(フリーランス記者) 2019年07月22日
過去を知り、現代をよく理解すると、未来が見えてくるような気になる。不確実すぎて、本当は未来に何が起きるかほぼ見えていないのかもしれないが、「未来の絵」を持っていることは、人類が歩む上で少なくとも足しにはなるだろう。
食のあり方についても、未来がどうなるかは気になるところ。食は生活に深く根ざしているだけあって、その変化が私たちにもたらす影響も大きい。
そうした中で、過去と現在から「食べること」の未来を描いてみるという試みを具現化した本が出版された。本書からは、食を巡る科学や技術はおおいに進むが、食を巡る人の身体や心はそう変わらないといった、科学技術と心身の乖離状況が見えてくる。
2019年5月30日に刊行された、
石川伸一著『「食べること」の進化史
培養肉・昆虫食・3Dフードプリンタ』。
『「食べること」の進化史 』(光文社新書刊)は、分子調理学を専門とする宮城大学食産業学群教授の石川伸一氏が、10年後から200年以上先までを見据えて「食」の行く末を予想する一冊。分子調理学は一般的に、料理を分子レベルから科学研究する学問分野のことで、著者は「分子」に「科学的な視点」という意味が込められていると説く。
過去と現在における私たち人間の食を巡る営みから、未来の食のあり方を考えるという視点に本書の特徴がある。食を巡る偉人の名言、研究者の実験成果、国際機関の調査結果などがてんこ盛りで、多くの知識を得ながら食の未来を思い描くことができる。
本書で書かれていることに触れつつ、未来における食のあり方に考えをめぐらすと・・・。
私たちホモ・サピエンスの祖先は「雑食」を選んだ。これにより、いろいろな食材を得られるようになり飢餓リスクが減った。反面「何を食べるか」と選ぶことも宿命づけられた。今後、食材の幅はどれだけ広がるだろうか。どんな材料が食材に加わるだろうか。
まず、大きく現況を捉えると、世界の人びとの食習慣の「類似度」は高まっているらしい。つまり、小麦、米、トウモロコシ、砂糖、搾油作物、動物性食品などからエネルギー摂取が増えているのだ。だが、その一方で、食習慣の類似度が高まるということは、その食材が使われてこなかった地域で新たにその食材が使われることを意味する。よって、食の多様化も進んでいるという。
つまり、大きく見れば食は均質化しているが、個々で見れば食は多様化しているわけだ。
1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。
<記事提供:食の研究所>
JBpress、現代ビジネス、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインの4つのビジネスサイトが共同運営する「食」の専門ページ。栄養士が勧める身体にいい食べ方、誰でも知っている定番料理の意外な起源、身近な食品の豆知識、食の安全に関する最新情報など硬軟幅広い情報を提供。
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