飲食業経営ノウハウ
2018年07月20日
ひとつの業態が流行ると、同じジャンルの似通った競合店が乱立するのは、日本の飲食業の特徴だ。近年では「均一料金の焼き鳥店」や「サラダ専門店」、「フルサービス型喫茶店」などが目立っている。また、業態だけではなく、例えばチーズタッカルビが話題になると韓国料理店以外でも見かけるようになるなど、業態の垣根を越えたメニューの取り込みも目につく。
他店の人気業態やメニューを参考に、店舗開発やメニュー開発をする飲食店も多いと思われるが、行き過ぎてしまうと法的なトラブルを生むこともある。近年では、安易な模倣や便乗が、大きなリスクとなる可能性も出てきた。知的財産権を扱う専門家の見解を交えながら、飲食店の模倣の現状と今後を考えてみた。
時代の変化で模倣(パクリ)に向けられる目は社会的に厳しくなってきているものの、飲食業はいまだに、繁盛店のコピー業態が多い。業態に限らず「均一料金」や「隠れ家風個室」といったアイデアを部分的に取り入れたり、看板やロゴの雰囲気を似せたり、似たような店名をつけたり、似たようなメニューを提供したりと、数え上げればきりがないほどだ。
その理由のひとつには、昔から業界として、“同じものをみんなで盛り上げてブームを起こせば、全体の活性化につながる”という考えがあるためだともいわれる。だが、中には“人気店との混同を狙っているのでは?”と思うほど、紛らわしい外観や看板を掲げる店舗もある。真似されたオリジナル側はブランドイメージや信用にも関わるため、時として使用中止や損害賠償を求める訴訟に発展することもある。
商標専門の弁理士で、飲食店の模倣をめぐる係争問題にも詳しい長谷川綱樹氏(プライムワークス国際特許事務所)は、飲食業で模倣が絶えない理由を、「現状の保護制度では、業態の一部しか守ることができないため」だという。
プライムワークス国際特許事務所
弁理士 長谷川綱樹氏
「たとえば料理の作り方については、これといった保護制度がありません。料理のレシピには著作権が認められず、特徴的な料理の盛りつけなど、料理自体を独占できる権利もありません。
もしその料理の方法が『秘伝の製法』(ノウハウ)であれば不正競争防止法により保護を受けられる“かも”しれませんが、そんなケースは稀でしょう。通常の場合、名物料理を他の店に真似されたとしても、その行為を罪に問うことは難しいです」
それに対し、店名やロゴ、イメージキャラクターや特徴のあるメニュー名などは、商標として特許庁へ出願・登録を受けることである程度守ることが可能だ。その場合、同一のものだけでなく、「類似」範囲についても商標権を行使できるが、ここにも問題がある。「類似」の判断が難しいということだ。
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