食物アレルギー対策
今村慎太郎 (NPO法人アレルギーっこパパの会 理事長) 2020年11月17日
食物アレルギーについて近年、社会的な関心が高まっています。また外食や中食を安心して利用できる社会にしたいと願う企業が多い一方で、リスクと事業性のバランスから食物アレルギーへの対応に二の足を踏んでいる企業も多いのが実情です。
そこで今回は、一つの仮説を検証してみたいと思います。「食物アレルギーの人がいる家庭は、内食の頻度が高く一般家庭よりも食費が低いのではないか?」というものです。この仮説を紐解ければ、外食や中食を利用したいが、できてない家庭(食費に余力がある家庭)が多く存在することを示せるのではないかと思います。では、いくつかの調査を比較してみましょう。
まず、外食の利用頻度について、食物アレルギーの子がいる家庭と一般家庭を比較してみたいと思います。
出典1:食物アレルギーの子がいる家庭/「小児食物アレルギーに関する基礎調査」(2018年8月日本財団)
出典2:一般家庭のデータ/「外食事情に関するアンケート調査」(2019年9月主婦向け節約情報メディア「わたしの節約」)より著者が抜粋し作成。
食物アレルギーの子どもがいる家庭は一般家庭に比べ、外食の利用頻度が低いことが見て取れます。一般家庭では最多層が月5回以上の38.1%であるのに対し、食物アレルギーの子どもがいる家庭は、わずか1.8%にとどまっています。
また、月1回よりも少ないと回答した家庭が、一般家庭では3.8%とごく僅かだったのに対し、食物アレルギーの子どもがいる家庭では23.9%にものぼります。
食物アレルギーにより外食をしない家庭は多数存在し、全体的に一般家庭よりも外食頻度は低いことがこのグラフから分かっていただけると思います。
次に中食の利用頻度を比較します。
出典1:食物アレルギーの子がいる家庭/「小児食物アレルギーに関する基礎調査」(2018年8月日本財団)
出典2:一般家庭/「惣菜の消費動向調査」(独立行政法人 農畜産業振興機構)より著者が抜粋し作成。
このグラフでも、一般家庭よりも中食の利用頻度が低いことが見て取れます。
一般家庭では週1回以上の利用が40.8%に対し、食物アレルギーの子どもがいる家庭では15.7%です。また、食物アレルギーの子どもがいる家庭では、利用頻度が月1回よりも少ない家庭は、全体の39.3%にものぼります。
上記の外食利用頻度、中食利用頻度ともに、同じ調査ではないため、精度が高い比較とは言えませんが、ここでは、食物アレルギーの子どもがいる家庭は、外食も中食も利用頻度が少ないということを、感覚的に掴んでいただければよいと思います。
これまでの調査を見る限り、食物アレルギーの子どもがいる家庭の月の食費は一般家庭よりも低くなると言えそうです。
食物アレルギーの子どもいる家庭 | 49,314円 |
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一般家庭の月の食費(平均) | 77,431円 |
出典1:食物アレルギーの子がいる家庭/「小児食物アレルギーに関する基礎調査」(2018年8月日本財団)
出典2:一般家庭の食費/「2019年家計調査(二人以上の世帯のうち勤労者世帯)」(総務省統計局)
食物アレルギーの子どもがいる家庭は、一般家庭に比べて食費が月に約28,000円低いということが推測できます。
5,000人を対象としたハウス食品グループの「食物アレルギー実態調査」によると、家族の中に食物アレルギーの人がいる家庭は約13.9%。
また、10,000人を対象にした日本財団の「小児食物アレルギーに関する基礎調査」でも、20~40代女性の子どもがいる家庭のうち20.4%の家庭に家族の誰かに食物アレルギーがあるという結果がでました。
人口全体では数%と言われており、一見小さなマーケットのように思われますが、重要なポイントは食物アレルギーの特徴は、一人の食物アレルギーが家族全体の食事に影響することです。例えば外出先でふらっと飲食店に入る、最寄りのスーパーで惣菜を購入するなど、一般的には当たり前のこの行動も、食物アレルギーの人が家族にいると難しいものです。
そう考えると、7家庭に1家庭の割合で、外食や中食を利用したいにも関わらず利用を控えている家族がいるという見方もできます。潜在的に大きなマーケットが存在していると言えそうです。
食物アレルギーの家族がいる家庭も、外食・中食の利用頻度が「少ない」だけであり、飲食店がアレルギー対応に取り組むことで、これまで外食・中食をあきらめていた人に食の選択肢を増やすことにつながっていくでしょう。
長女の食物アレルギーをきっかけに、2013年にNPO法人アレルギーっこパパの会を設立し、理事長に就任。「食物アレルギーがある人の安心できる外食は、料理を提供する人の安全からはじまる」を信念に、外食事業者に向けた講演、日本マクドナルドのアレルゲン検索システム構築の際のアドバイス、森永製菓、第一屋製パンとの新規事業立ち上げ、障害者就労支援施設でのアレルギー対応食品製造、100名規模の参加者全員のアレルゲンに対応した外食イベントの開催、約5年間に渡る『HOTERES(週刊ホテルレストラン)』でのコラム連載などを行う傍ら、週に数日、飲食店の現場に入り料理の提供も行っている。
公式サイト:https://www.arepapa.jp/
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