基本の食品衛生

夏は細菌性食中毒にご用心。飲食店がすべき予防と万一のときに必要な保健所対応

2020年06月30日

夏は細菌性食中毒にご用心。飲食店がすべき予防と万一のときに必要な保健所対応

梅雨や夏場のシーズンの飲食店で最も気を付けなければならないのが、カンピロバクターなどを原因とする細菌性の食中毒だ。食中毒事故は、年間を通じて半数以上が飲食店で発生している。特に昨今は、新型コロナウイルスの影響で新たにテイクアウトを始めた店舗も多い。不慣れによる食中毒リスクの高まりが懸念される。

顧客の生命にかかわり、店舗経営にも致命的なダメージを与える食中毒事故。食中毒は、原因物質ごとに症状や原因となる食材、有効な対策がある。弁当などのテイクアウトやデリバリーサービスにおける注意点とあわせて、厚生労働省と日本食品衛生協会の食中毒対策資料をもとに解説する。自店舗で取り扱うメニューや製品と照らし合わせて参考にしてほしい。また、万が一、発生が疑われる事態となった場合に必要な保健所への対応もまとめた。

夏に細菌性食中毒が多くなる理由

食中毒は年間を通して発生しており、その原因のほとんどは細菌やウイルスといった微生物による。冬場はノロウイルスが猛威を振るう一方で、夏場で圧倒的に多いのが細菌性食中毒だ。

細菌性食中毒事件の発生状況(2019年)

細菌性食中毒事件の発生状況(2019年)出典:厚生労働省『食中毒統計調査』(2020年3月26日公開)

細菌性食中毒事件の種類内訳(2019年)

細菌性食中毒事件の種類内訳(2019年)出典:厚生労働省『食中毒統計調査』(2020年3月26日公開)

出典:厚生労働省『食中毒統計調査』(2020年3月26日公開)

食中毒を予防するには『つけない・増やさない・やっつける』が3原則とされる。汚染された手や調理器具から食品についた細菌は、危険温度帯(10~60℃)で増殖する。湿度と温度が高くなる夏場は細菌類が増殖しやすい環境にあるのだ。

多くの細菌の対策で有効なのが加熱処理だ。ただし、カレーなどの煮込み料理でしばしば大規模な事故を起こすウエルシュ菌をはじめ、熱に強い種類もある。

また、最も発生件数が多いカンピロバクター食中毒は、生または加熱不十分な鶏肉が原因だ。「新鮮なら生食できる」、または「表面を炙るか、湯引きすればよい」という誤解で毎年多くの事故が発生している。

細菌の種類やメニュー、食材ごとに、適切な調理工程と保管方法を守らないと食中毒のリスクが高まってしまう。以下に、発生件数の多い順に細菌ごとの特徴と予防策を示す。

食中毒を引き起こす細菌の特徴と予防策

カンピロバクター

主な食材 生、または加熱不十分な鶏肉。
(例)鶏のたたき、鶏肉、鶏レバーの生食や調理時の加熱が不十分なもの
特徴 市販流通鶏肉の多くが汚染しているといわれている。 冷凍・冷蔵庫の中で長期間生存するが、加熱に弱い。
症状 2~3日で発症する。する。腹痛、下痢、発熱、頭痛、嘔吐などを起こす。
対策加熱 生肉を使った肉料理を避ける。肉の中心部まで十分に加熱(75℃で1分以上)。生肉を扱った後は手指や調理器具を十分に洗浄する。調理器具や食器は、熱湯で消毒し、よく乾燥させる。肉の保存時や調理時は、ほかの食材(野菜など)と接触させない。
冷蔵/冷凍

 

腸管出血性大腸菌

主な食材 加熱不十分な食肉・内臓肉(牛だけでなく豚・馬の例あり)、またそれらによって汚染された食品、牛糞堆肥などで汚染された生食用野菜・浅漬け・水など
特徴 代表的なものにO157、O111など。O157は感染力が非常に強い。食中毒だけではなく、他の人やトイレなどから感染することがある。冷凍しても死滅しないが、消毒薬や加熱で死滅する。
症状 3~8日で発症する。する。頻回の下痢、激しい腹痛、著しい血便も。発熱は一過性が多い。時に重篤な合併症を起こし、死に至ることも。
対策加熱 生肉を扱った後は手指や調理器具を十分に洗浄する。調理器具や食器は、熱湯で消毒し、よく乾燥させる。肉の保存時や調理時は、ほかの食材(野菜など)と接触させない。検便から検出された調理スタッフは陰性が確認できるまで調理に従事することはできない。
冷蔵/冷凍

 

黄色ブドウ球菌

主な食材 調理する人の手指から食品につくことが多いため、手指を使用するおにぎり・サンドイッチ・弁当・和洋生菓子などの様々な食品
特徴 人や動物に常在する。毒素は加熱(100℃30分)でも無毒化されない。
症状 1~5時間(平均3時間)で発症する。
吐き気、嘔吐、腹痛、下痢。
対策加熱 調理前はよく手を洗う。手荒れや化膿創のある人は、食品に直接触れない。調理中に髪の毛や顔などに触らない(髪の毛はまとめる、三角巾など装着)。下ごしらえから調理、食べるまでの時間を短時間にする。常温で長時間放置された原材料・食品は廃棄する。防虫・防鼠対策、低温保存は有効。
冷蔵/冷凍 ○冷蔵

 

ウエルシュ菌

主な食材 食肉、魚介類及び野菜類を使用した煮物や大量調理食品(中心部に酸素がない状態)が原因となりやすく、スープ、カレー、冷やし中華のたれなど。
特徴 健康なヒトの腸管や土壌、下水などの自然界に広く生息する。加熱に耐えるため、加熱後に室温で長時間保温された食品が原因となりやすい。
症状 6~18時間後に発症する。下痢、腹痛を起こす。まれに嘔吐や発熱。多くは軽症に経過し、1両日で治癒。
対策加熱 調理後に冷却、または再加熱する食品は、急速冷却する(30分以内に20℃以下、1時間以内に10℃以下に冷却)。再加熱する場合は、撹はんしながら十分に(中心温度75℃1分以上(中心部沸騰維持))加熱する。基本的には、前日調理は避け、食べられる量を調理し、当日中に早めに食べる。
冷蔵/冷凍 ○冷蔵

 

サルモネラ菌

主な食材 卵とその加工品、鶏肉・食肉・内臓肉、スッポン・ウナギなどの淡水養殖魚介など。また、食品取扱者・器具などからサルモネラが付着したことで、各種食品が原因となったことも。
特徴 鶏・豚・牛などの動物の腸管や河川・下水道などの自然界に広く生息する。乾燥に強い。
症状 12~48時間後に発症する。腹痛、下痢、発熱、嘔吐を起こす。長期にわたり保菌者となることもある。
対策加熱 卵を生食する時は、新鮮で殻にヒビがないものを冷蔵庫で保管し、期限表示内に使用する(鶏卵、ウズラ卵、アヒル卵を含む)。卵を割ったら、直ちに料理する。割ったまま保存しない。肉や卵は、冷蔵庫で保存し、料理する時には、十分に(中心温度75℃1分間以上)加熱する。生肉・卵などを扱った手指や調理器具はよく洗浄、消毒する。冷蔵庫などの施設設備は清拭消毒する。ネズミ、ゴキブリなどの対策を実施する。調理スタッフの検便を行い、記録を保管する。
冷蔵/冷凍

 

セレウス菌

主な食材 麦を原材料とする麺類や米飯、パン、野菜・果実及び調理加工品、豆腐、ナッツ、乳及び乳製品、調味料及びスパイス、穀類及び調理加工品、生米、サラダ、魚介類及び調理加工品、さしみ、練り製品、フライ、コロッケ、食肉及び調理加工品、生肉、ハム、ソーセージ、ギョウザ、シューマイなど、様々な原材料から検出される。
特徴 土壌や河川など自然界に広く生息する。症状により嘔吐型と下痢型の2つがあり、国内では嘔吐型食中毒が多く見られる。熱に強く126℃90分の加熱処理でも失活しない。
症状 ①嘔吐型 短時間(およそ1~5時間程度)で発症する。症状は、吐き気と嘔吐を起こす。 ②下痢型 8~16時間程度で発症する。腹痛と下痢を起こす。
対策加熱 調理する時は十分に加熱する。食べきれる量だけを作り、大量に料理して残さない。チャーハン、ピラフなど炒め物を調理後、室温で長時間放置しない。テイクアウトでは早めに食べる。
冷蔵/冷凍 ○冷蔵

 

腸炎ビブリオ

主な食材 生で食べる魚介類(すし・さしみ(貝類を含む)など)が多く、また、生魚に触った手指やまな板などから、他の食品にこの細菌が付くことにより原因食品となる場合があります(一夜漬け・魚介加工品など)。
特徴 海底の泥のなかに生息し、海産魚介類の体表・エラ・内臓などに付着している。真水や酸に弱い。室温でも速やかに増殖する。3%前後の食塩を含む食品中でよく増殖する。
症状 12時間程度で発症する。激しい腹痛・水様性の下痢、発熱、嘔吐を起こす。
対策加熱 魚介類、刺身・すしは低温管理する(氷や保冷剤で冷やして運ぶ、短時間であっても4℃以下の冷蔵庫に保管など)。鮮魚介類を調理する時は、食品製造用水でよく洗う。下処理や調理の前後は調理器具や手指の洗浄を十分おこない、包丁・まな板などの器具は下処理用・刺身用またはその他肉・野菜・調理済み用などで使用区分する。調理した刺身などの鮮魚介類は、食べる直前に冷蔵庫から出し、2時間以内に食べきる。
冷蔵/冷凍 ○冷蔵

参考:公益社団法人日本食品衛生協会『知ろう!防ごう!食中毒(食中毒菌などの話)』

テイクアウト・デリバリー商品の食中毒予防策

新型コロナウイルスの影響でテイクアウトやデリバリーをはじめた飲食店も多いだろう。店内提供の場合と異なり、調理から食べるまでの時間が長くなること、その間の保存状態は消費者に委ねられる点に注意が必要だ。普段以上の衛生管理と食中毒予防の3原則『つけない・増やさない・やっつける』を徹底したい。

○つけない~コロナ対策に加え基礎的な衛生管理の徹底

・正しい手洗いをこまめに実施
・調理器具などは洗浄消毒し、使用用途により使い分ける
・調理従事者の体調管理を行い、下痢・嘔吐・発熱などの症状がある場合は調理しない
・鮮魚介類など生ものの提供は避ける

○増やさない~危険温度帯(10~60℃)をできるだけ早く通過させる

・調理したら長時間常温で放置せず、10℃以下または65℃以上で温度管理する
※給食施設では、30分以内に20℃以下に、1時間以内に10℃以下に冷却するよう工夫することとされている。生肉に存在する細菌性食中毒を防ぐには、75℃1分以上で中心まで十分に加熱する。
・小分けなどで速やかに冷やす。持ち帰り時の保冷剤の使用、保冷、保温ボックスでの配達などで細菌類の増殖を防ぐ。
・口頭やシールなどで、すぐに食べていただくよう客に説明する。

○やっつける~十分な加熱と適したメニューの提供

・食肉などの加熱が必要な食品は中心部までよく火を通す

食中毒予防は調理工程・保管のルール徹底で

細菌性食中毒の多くは加熱や冷蔵保存で予防できるが、ウイルスや自然毒などその他の食中毒のリスクは、食材の納品時から下処理、調理して顧客の口に入るまでのあらゆる場面にある。調理スタッフが正しい知識を持って確実な衛生管理を行うことが重要だ。

飲食業未経験で食品衛生の基本を知らないアルバイト従業員でも実施できる調理工程・保管のルールを定めると共に、「なぜ必要なのか」理解できる教育も求められる。ひとりでもいい加減なやり方をしてしまうと、食の安心・安全を保つことはできない。厚生労働省『HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け)』をもとにルールを決めて、マニュアルを策定しよう。

マニュアル類は本部主導で作成し、説明するとよいだろう。その際は、調理工程を作成・共有できるITツールを使って、従業員にタブレット端末などで教えるのも有効だ。紙での配布に比べ、内容の更新が簡単かつ確実に行えるため、古い情報で作業を続けてしまうといったリスクを減らせる。また、紛失や汚損で読めないというおそれもない。

食中毒を発生させてしまった場合の保健所への対応

あってはならないことだが、万が一店舗で提供した食事で食中毒が発生した疑いがあれば、保健所はただちに疑いのある飲食店に立ち入り調査を行う。被害を広げないよう一刻を争うため、事前通告はないか、あったとしても直前だという。

調査内容は事案ごとに異なり、症状や状況にあわせた聞き取り形式で進められるが、店舗は主に以下のような項目を確認される。また、聞き取りだけではなく、商品の仕入や、調理に関わる資料の提出を求められることもある。特に調理工程マニュアルは食材の加熱時間や、調理手順を確認する上で重要な情報源となる。

店舗への主な聞き取り項目店舗から保健所への主な提出物
・申し出のあった客の利用した日時
・他からの苦情がないか
・その日の利用者数
・原因と疑われるメニューの出品数、調理工程
・体調が悪い従業員がいないか
・調理手順のわかる調理方法マニュアル
・衛生管理マニュアルや記録類(冷蔵庫の温度チェック表など)
・従業員の検便結果(後日実施の場合もあり)
・検体(原因と疑われるメニューなど)
・仕入れ先、仕入れ履歴がわかるもの(伝票など)
・必要に応じて、検便検査

参照:店で食中毒が発生!?保健所の立入調査に飲食店はどう対応するか 

「うちは大丈夫」と思っていても飲食を提供している限り、いつどこの店舗に調査が入るかはわからない。大切なのは、日ごろから提出物をすぐ出せるよう、衛生管理や調理手順のマニュアル類、仕入れ伝票などを整理しておくことだ。仕入れ伝票は受発注の履歴が残るITツールを利用すれば消失などの問題もなくなるだろう。

顧客の命を預かる飲食店は、安心・安全な食事を提供し続ける責任がある。食中毒事故は、これまで築いてきた顧客と店舗の関係性や信頼を一瞬で消してしまう。だが、日ごろから基本的な衛生管理を正しく行っていれば防ぐことは十分可能だ。新型コロナウイルスの感染予防対策と食中毒の予防対策の2本柱で、暑い夏を乗り越えてほしい。


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