食の研究所
小暮 実(食品衛生アドバイザー) 2017年07月26日
しかし、養鶏場での感染原因がはっきりしていないことや、食鳥処理場で二次汚染を受けることなどから、鶏肉の汚染率を下げるよい方策が見つかっていない。
食中毒事件のほとんどは、鶏刺し、鶏タタキなどを食べたり、バーベキューなどで加熱不足の鶏肉を喫食したことによるものである。カンピロバクターは、ほとんどの鶏肉に付着しており、少量の菌量でも感染して発症することが知られている。
つまり、従来の食中毒予防の三原則として「つけない、増やさない、やっつける」が提唱されているが、カンピロバクターは「増やさない」が無効の食中毒であり、食品中での増菌の機会がなくても発生してしまうのだ。
このため、厚生労働省では、鶏肉類については十分に加熱して食べるよう指導している。しかし、鶏肉の生食がなかなか減らないため、食中毒事件も減らないのが実態である。そこで、2017年3月には、食鳥処理業者、卸売業者に対しても、鶏肉を販売する際には「加熱用」「生食には使用しないでください」などと表示するよう指導している。
これだけ食中毒の原因となっていることから、豚肉や牛レバーと同様に生食を禁止すべきものと考えている食品衛生監視員も多い。しかし一方で、宮崎県や鹿児島県では、鶏肉のタタキは日常的に食べられており、食文化の一部であるとの考え方もあり、生食禁止には至っていない。
カンピロバクターによる食中毒では、腸管出血性大腸菌O157などとは違って死者が発生する食中毒ではないが、一部の患者がギランバレー症候群という手足が動かなくなる重篤な神経炎症状を呈することが知られている。食中毒保険の事例では、50歳代の女性がギランバレー症候群となり四肢麻痺の後遺症が残ったため、高額な補償金で示談となった例も報告されている。
現状では、鶏肉のカンピロバクターの汚染率が高く、少量の菌量でも感染することから、鶏肉を生食する行為はかなりハイリスクである。テレビのグルメ番組では、しばしば「鮮度のよいものは生で食べられる=安全で美味しい!」といったような間違った情報を消費者に届けてしまう。
カンピロバクターによる食中毒防止のためには、鶏肉についてはしっかり加熱して食べることを、再三にわたり啓発していくことが肝要である。
1955(昭和30)年生まれ。東京農工大学農学部農芸化学科卒、雪印乳業(株)を経て、中央区保健所にて39年間食品衛生監視員として勤務。銀座、日本橋、築地などの飲食店や食品輸入業者の監視指導にあたり、多数の食中毒事件や違反食品の調査措置経験あり。現在、食品衛生アドバイザーとして活動中。
<記事提供:食の研究所>
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