食の研究所
漆原 次郎(フリーランス記者) 2017年03月16日
遺伝子組換えより格段に簡単な方法で遺伝子改変を実現する新たな技術、それが「ゲノム編集」だ。DNAを切る“ハサミ”の役割をする制限酵素などを、細胞の中のゲノムに導入することで、狙ったわずかな数の塩基を人工的に欠損させたり置換させたりすることができる。
今、研究者や企業の間では、従来の交配や接木などに加えて、分子生物学的な手法を組み合わせた「新しい育種技術」(NBT:New Breeding Techniques)が次々と開発されている。ゲノム編集もその1つに位置づけられている。
これらは未来の農業、畜産業、水産業のあり方を大きく変えることが予想される。栽培や牧畜の手間を省く、食材としての劣化を防ぐ、個体を肥大化させるなど、考えられている用途はさまざまある。
一方で、遺伝子の操作を伴う技術を導入することには、慎重になるべきとの考えが起きるのも当然だ。NBTの活用を巡って、どのような規制をすべきかを考えていく必要がある。
そこで、ゲノム編集をはじめとするNBTをテーマに、前後篇で各国の政策や規制についての現状を茨城大学農学部教授の立川雅司氏に聞いている。立川氏はバイオテクノロジーなどの技術が農業・食料に対して及ぼす影響について農業・食料社会学的観点から研究をしている人物だ。
前篇では、NBTの活用について、各国は総じて積極姿勢であるものの、規制のあり方については各国ともまだほぼ検討中ということだった。そして、今後の規制をめぐっては「既存の遺伝子組換えなどの制度的枠組み」がNBTにも当てはまるのかの判断がポイントになるという。
そこで、後篇では「NBTは遺伝子組換え技術に含まれるのか」をめぐる各国の判断状況について立川氏に話を聞くことにする。
――前篇の最後に、NBTを巡る規制については、既存の遺伝子組換えの制度的枠組みとの関連性が重要になるという話がありました。どういうことでしょうか。
立川雅司氏(以下、敬称略) NBTを用いた作物が遺伝子組換え作物と見なされると、既存の遺伝子組換えに関する規制の適用を受けることになります。そのため、適用を受けるか否かが大きな課題として浮かび上がってきているのです。
1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。
<記事提供:食の研究所>
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