食の研究所

“衝撃”のゲノム編集、作物は食卓に並ぶのか?~「新しい育種技術」の可能性と課題(前篇)

漆原 次郎(フリーランス記者)  2017年02月23日

そこで、今回はゲノム編集をはじめとするNBTをテーマに、日本を含む各国の政策や規制について、現状を専門家に聞くことにした。応じてくれたのは、茨城大学農学部教授の立川雅司氏だ。バイオテクノロジーなどの技術が農業・食料に対して及ぼす影響について、農業・食料社会学的観点から研究している。

前篇では、NBTに対する各国の姿勢について、それに私たち市民が認識しておくべきことについて、立川氏に聞いた。後篇では、この技術の普及を大きく左右するとされる、「NBTは遺伝子組換え技術に含まれるのか」をめぐる各国の判断状況について、現状を聞くことにする。

正確性や迅速性を高めた「新しい育種技術」

――農作物、畜産業、水産物などの分野で、従来の育種とは異なる技術の開発が進んでいると聞きます。

立川雅司氏(以下、敬称略)DNA操作技術の進展で「新しい育種技術」(NBT)と呼ばれる、さまざまな技術群が登場してきています。NBTは、これまでのゲノム研究の蓄積を活用しつつ、従来の育種法よりも正確性や迅速性を高めた育種技術だといえます。

――具体的には、どのような技術があるのですか。

立川 今のところですが、次の3種類の技術の群に分けて理解することができます。

1つめは、「ゲノム編集技術」に含まれるものです。20年ほど前に登場したジンクフィンガー・ヌクレアーゼをはじめ、2010年に登場したTALEN、さらに2012年に発表されたCRISPR-Cas9などがあります。

2つめは、育成の過程で遺伝子組換え技術を使用するものの、最終的な製品からは挿入した遺伝子を除去して、分離した後代を利用するものです。「逆育種」「種子生産技術」「ウイルスベクターを利用した開花促進」などを挙げることができます。

3つめは、遺伝子組換えに準じた技術です。「接ぎ木」「シスジェネシス」「イントラジェネシス」などを挙げることができます。

これらのNBTは幅広い応用が期待されていて、関心を集めています。

技術の呼称内容
ゲノム編集 DNA鎖を切断する酵素などを細胞内に導入し、数塩基を人工的に欠損させたり、置換させたりする。
逆育種 品種間の交雑で生まれた雑種から、自然に起こる組換えを抑制する遺伝子などを用いて、もとの交配親の系統を復元する。最終的な製品に外来遺伝子は残らない。
種子生産技術 遺伝子組換えにより、花粉のできない系統を安定的に作ることで、品種間の交雑を効率よく行えるようにする。最終的な製品に外来遺伝子は残らない。
ウィルスベクターを利用した開花促進 開花に関わる遺伝子を持たせたウイルスベクター(遺伝子の運び屋)を感染させることで、植物に結実を促し、品種改良にかかる時間を大幅に短縮させる。最終的な製品に外来遺伝子は残らない。
接ぎ木 病害に強い遺伝子組換え植物を台木にするなどし、その上に植物に接合させて効率よく栽培する。
シスジェネシス 同種あるいは交雑可能な近縁種の間で遺伝子組換えを行う。遺伝子をそのまま導入する。
イントラジェネシス 同種あるいは交雑可能な近縁種の間で遺伝子組換えを行う。改変した遺伝子を導入する。

「新しい育種技術」(NBT)の例。各種資料をもとに筆者と編集部が作成。

主要国は推進姿勢の一方、団体から規制を求める声も

――ゲノム編集をはじめとするNBTの活用に対して、世界の地域や国はどのような姿勢をとっているのでしょうか。

立川 欧州連合(EU)では、ゲノム編集については「外来遺伝子を導入するものでなければ、一般的な育種の延長である」との認識から、安全性も高いと判断され、積極的に育種技術として活用していこうという加盟国も見られます。

また、米国はゲノム編集に関わる技術開発を先導しており、その応用にも積極的です。


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執筆者プロフィール

漆原 次郎(フリーランス記者) 

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。

<記事提供:食の研究所
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