食の研究所
漆原 次郎(フリーランス記者) 2017年02月23日
2016年あたりから、「ゲノム編集」という言葉が世間でよく聞かれるようになった。
一般書も出ている。『ゲノム編集の衝撃「神の領域」に迫るテクノロジー』(NHK「ゲノム編集」取材班著、NHK出版)や『ゲノム編集とは何か「DNAのメス」クリスパーの衝撃』(小林雅一著、講談社現代新書)などだ。
共通するのは「衝撃」という言葉が使われていること。ゲノム編集の何がすごいのか。
『ゲノム編集の衝撃』に序文を寄せたノーベル賞受賞者の山中伸弥氏は、「技術として簡単であること。成功率が高いこと。いろいろな生物に適用できること。上記の3点が揃った生命科学技術というのは、これまでには他に存在しませんでした」と述べ、同氏が基礎研究に携わった25年間で「おそらく最も画期的な技術ではないか」としている。
よく引き合いに出されるのが遺伝子組換えだ。こちらは「生物の細胞から有用な性質を持つ遺伝子を取り出し、植物などの細胞の遺伝子に組み込み、新しい性質をもたせること」(厚生労働省パンフレット)。
遺伝子組換えの技術的な壁は、手間がかかることにあった。細胞内にある何万もの遺伝子の中から、狙いの遺伝子に偶然、外来遺伝子が入って作用するのを待つしかないのだ。
ゲノム編集についても、細胞の遺伝子を欠損させたり置換したりして、新しい性質を持たせるという点では変わらない。だが、ジンクフィンガー・ヌクレアーゼやTALEN(タレン)、またCRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)といった酵素を利用することで、山中氏の述べる通り、簡単に、成功率は高く、しかも汎用的にそれを行うことができる。遺伝子改変に成功するまでの時間は、遺伝子組換えの100分の1ともされる。
ゲノム編集だけではない。今、研究者や企業の間では「新しい育種技術」(NBT:New Breeding Techniques)と呼ばれる技術の開発が進められている。
NBTとは、従来の交配や接木などに加えて、分子生物学的な手法を組み合わせた品種改良技術を総称したものだ。ゲノム編集をはじめとするNBTの実用化が、農業、畜産業、水産業などで進めば、作業の効率化などが激的に図れるとも考えられる。
だが、人工的な遺伝子改変を伴う新しい技術には、導入を巡っての議論や合意形成のプロセスが必要となる。
1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。
<記事提供:食の研究所>
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