食の研究所

「おいしい=快感」となる脳の仕組みは?~私たちの命を守る「おいしさ」のセンサー

佐藤 成美(サイエンスライター)  2016年08月19日

五感によって受け取った、味や香り、色、形などの外観、温度、歯ごたえなどの食べ物の情報は、大脳皮質のそれぞれの感覚野(かんかくや:「感覚領」とも言う)に伝えられる。大脳皮質とは大脳の表面に広がる薄い神経細胞の層で、知覚や思考などの中枢になっている。感覚野は大脳皮質のうち、感覚に関与している部分だ。情報は感覚野に伝えられた後、大脳皮質連合野という部分に集まり、食べ物が安全かどうか、求める栄養素を含むかなどを判断する。

味覚などの五感から得た食べ物の情報と血糖値など生理的な状態の情報は、さらに扁桃体(へんとうたい)へと伝わる。偏桃体とは、大脳の内側にある大脳辺縁系の一部で、いい気持ちになったり、不愉快になったりする、「快・不快」の本能的な感情を生み出しているところだ。ここでは、記憶や体験など過去の情報と照合し、食べ慣れていて安心して食べられるなどの手がかりをもとに、好ましいかどうかを判断する。

扁桃体の情報は、さらに視床下部(ししょうかぶ)へと伝わる。視床下部は、偏桃体の近くにある食欲をコントロールする部分で、食べるように促す摂食中枢と、食べるのをストップさせる満腹中枢に分かれている。好ましい食べ物の場合は摂食中枢を刺激する。すると食欲が増し、おいしく味わって食べることができる。好ましくない場合は、食べることをやめる。

このように脳に集まったさまざまな情報が次々に伝達されることで、おいしさを感じ、私たちの食行動を決めているのだ。

おいしさは生命維持のために備わった快感

一言でいえば、おいしさは食べ物を食べたときの「快感」だ。快感は大脳皮質で理知的に判断されるのではなく、偏桃体で本能的に感じるものなのだ。先に述べたように、偏桃体で感じる「快・不快」の感情(情動という)は、動物の行動を理解するために使われる。動物は「快」をもたらす刺激には接近し、「不快」をもたらす刺激は遠ざける。

そこで、食べることに「快」をもたらすことで、食欲という生命維持に欠かせない欲望を生み出しているのだ。「食べたい」と思うのはどの動物でも共通なので、人類以外の動物にもおいしいという感覚はあるのだろう。

私たちは食べ続けなければ生きてゆけない。それなのに食べることが苦痛だったら、あっという間に、人類は滅びていたことだろう。そこで、生体は食べることに心地よさや喜びを感じさせるようになっているのだ。おいしいという快感が、「もっと食べたい」という感覚を生じさせることで、私たちは生命を維持できるのである。

毎日おいしく食べられるのは、生きていることの証である。おいしく食べる工夫をして、暑い夏を乗り切りたい。

執筆者プロフィール

佐藤 成美(サイエンスライター) 

佐藤 成美(さとうなるみ) サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)、農学博士。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『「おいしさ」の科学』(講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

<記事提供:食の研究所
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