食の研究所

味がなくなるほど減塩、そこまでする必要あるの?~高血圧の95%はいまだ原因不明

佐藤 成美(サイエンスライター)  2016年05月19日

これでようやく、食塩と高血圧の発症が関連していることが人で示された。しかしすべての人が、食塩を過剰に摂取すると血圧が上がり、減塩すると血圧が下がるわけではないことも明らかになっている。

これは食塩に対する血圧の反応性が人によって異なり、食塩を摂りすぎると敏感に反応して血圧が上がりやすい食塩感受性の人とそうでない人がいるためだ。食塩感受性は以前から知られていたが、その違いがどうして生じるのかは解明されず、食塩感受性の定義も定まらないので、食塩感受性があるか、ないかを判定することも難しかった。

2011年に東京大学の藤田敏郎教授らが、動物実験によって食塩感受性高血圧の分子メカニズムを解明した。塩分感受性のネズミは、食塩を摂りすぎると、腎臓の交感神経が活発になり、塩分排泄に関わる遺伝子の働きが抑えられてしまう。その結果、体内にナトリウムがたまり、血圧が上がるのだという。

さらに研究が進めば、個人の塩分感受性に応じた治療法や分子メカニズムを標的とした高血圧の治療薬が開発される可能性がある。

「現状よりやや減塩」が現実的な選択

極端な減塩をすると高血圧とは別の健康障害をもたらすことも知られており、減塩に関する議論は続いている。ただ、疫学調査の結果からは食塩の過剰摂取と高血圧の発症の相関は明らかなので、摂りすぎに気を付けるのはもちろんのことだ。しかし、食塩の摂取量だけを気にしても高血圧の問題は解決しそうにない。

高血圧に大きくかかわるのは、食塩摂取量ではなく、ナトリウム摂取量である。ただし、私たちは、調味料に含まれるグルタミン酸ナトリウムなどからもナトリウムを摂取しているので、それらのナトリウムに気をつけるのも一考だろう。加工食品には、ナトリウムを多く含むものが多く、ナトリウム量を表示する食品も多い。

また、体液中のナトリウムの濃度は、カリウムとのバランスで決まり、カリウムが多ければナトリウムは排出される。カリウムをたくさん含む野菜や果物を食べて、十分な量のカリウムを摂取したい。なお、一部ににがりの多い塩や塩田でつくった塩が「天然塩」と称され、高血圧を予防できるという誤解があるようだが、どんな塩であろうとも塩化ナトリウムであることには変わりがなく、高血圧予防効果はない。

「WHOの推奨基準より、日本の食塩摂取目安量のほうが多いのは、日本人の食生活の現状に合わないことを検討したためではないか。食塩の健康影響は量の問題であるが、どこまで減らすかは、難しい。現状よりやや減塩が現実的な選択だろう」と内閣府・食品安全委員会の佐藤洋委員長は報道関係者との意見交換会で説明した。

人によって適当な食塩量は異なるし、高血圧を気にしすぎて、おいしいものをがまんするのはもったいない。バランスのよい食事を心がけることで、豊かな食生活を送りたいものだ。

執筆者プロフィール

佐藤 成美(サイエンスライター) 

佐藤 成美(さとうなるみ) サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)、農学博士。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『「おいしさ」の科学』(講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

<記事提供:食の研究所
JBpress、 現代ビジネス、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインの4つのビジネスサイトが共同運営する「食」の専門ページ。栄養士が勧める身体にいい食べ 方、誰でも知っている定番料理の意外な起源、身近な食品の豆知識、食の安全に関する最新情報など硬軟幅広い情報を提供。
食の研究所はこちらhttp://food.ismedia.jp/

食の研究所  バックナンバー

おすすめ記事


メルマガ登録はこちら
フーズチャネルタイムズ 無料購読はこちら