食の研究所
佐藤 成美(サイエンスライター) 2016年04月15日
汚染の経路には農場や、加工、包装の過程があり、食中毒菌の由来は土のほかにも、動物の糞尿、堆肥、水や作業者の手などがある。
とくに野菜では栽培している土壌や堆肥、野生動物の野菜への付着は避けられないので、調理する前に土を落とし、よく洗うことは必須なのである。
農林水産省も、生鮮野菜を衛生的に保ち、食中毒を起こさないように水や堆肥の管理、手洗いなどの衛生上注意すべき点をまとめた指針をつくり、農家の指導をしている。
齋藤さんは「有機野菜だから土が付いても安全ということはありません」と語気を強める。有機野菜とは、農薬や化学肥料を使わず、堆肥などの有機肥料を使ってつくられた野菜のことをいう。
「堆肥は、ナタネ油粕や骨粉、家畜の糞などを発酵させてつくります。家畜の糞などには病原菌や寄生虫の卵が含まれていることがあり、きちんと管理して、うまく堆肥をつくらないと堆肥を介して土に病原菌などが混入することがあるのです」
日本で農薬や化学肥料が使われ、野菜を生で食べるようになったのは戦後のことだ。戦前まで、日本人は野菜を生では食べず、加熱して食べるのがふつうだった。当時の農家は人糞による下肥や家畜糞尿を肥料として使っており、畑の衛生状態がよくなかったからだ。
戦後、農業生産者が生野菜のサラダを食べる進駐軍向けに野菜を出荷しようとしたところ、進駐軍に化学肥料や農薬を使うことを要求された。こうして化学肥料や農薬を使って栽培した野菜は「清浄野菜」とよばれ、衛生的だと評判を呼んだという。清浄野菜が一般向けにつくられるようになると、日本人に化学肥料や生野菜が普及した。
「昔のやり方に戻したならば、昔のリスクが復活するということなのです。有機野菜では、いっそう衛生面に気を付ける必要があります」と齋藤さんは念を押す。
健康のためには野菜をたくさん食べたい。成人の場合では、1日350グラム以上摂取するのが理想といわれている。でも、いくら気を使って野菜を食べたとしても、食中毒になっては元も子もない。
東京都福祉保健局は、野菜の衛生学的実態調査を行い、野菜に付着している菌からセレウス菌や黄色ブドウ球菌などの食中毒菌を検出した。しかし、十分に水洗いすれば、細菌数を減らすことができると報告している。
土は自然界においても私たちにとってもかけがえのないものであるが、食品衛生から見れば不衛生なものでもある。泥付き野菜ならば、土と一緒に食中毒菌や寄生虫の卵が付いている可能性がある。
野菜や土のイメージにとらわれず、「よく洗う」という調理の基本を忘れずに。とくに生で食べるときは細心の注意を払ってほしい。
佐藤 成美(さとうなるみ) サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)、農学博士。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『「
<記事提供:食の研究所>
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