食の研究所

絶滅危機のウナギは庶民の食卓に戻るのか -ニホンウナギの完全養殖に希望の光

佐藤 成美(サイエンスライター)  2015年07月22日

戦後、急速に進んだ河川や沿岸の環境破壊は、ウナギの生息に大きな影響を与えたと考えられている。河川や沿岸の護岸工事によって天然ウナギの隠れ場やエサの生息場が失われ、また、ウナギが遡上する河川にダムや堤防が建設され、ウナギの生息域が大幅に減ってしまった。環境の改変とウナギ資源の減少を科学的に証明するのは難しいが、このような環境の改変や水質の悪化によってウナギが生息しにくくなったところに乱獲が加わり、シラスウナギの漁獲量の大きな減少が進んだのだろう。

ここ10年ほど、ウナギの輸入量と生産量はともに減少し、ウナギの値段も高騰している。消費量は減り、廃業するウナギ料理店や養殖業者も増えている。ウナギが庶民の食べ物になったのも、つかの間の出来事だったのだ。それどころか、このままシラスウナギが減り続けたら、幻の食べ物になるかもしれない。

“完全養殖” が一挙解決への光明

そこで、期待が高まっているのがウナギの完全養殖である。完全養殖とは、卵をふ化させて得た仔魚を育て、成魚にまで育てるもの(図)。40年ほど前から研究が進められている。

20150722_kenkyusho_003

ウナギの完全養殖

ウナギは身近な魚であるが、産卵形態は分かっておらず、人工飼育では、全く成熟しなかった。そこで、ウナギにサケなどのホルモンを投与して、人為的に成熟させる方法が開発された。これで親ウナギの催熟技術が向上し、仔魚を得ることができるようになったのだ。しかし、その仔魚を飼育する技術の開発は困難を極めた。その最大の要因は仔魚の餌が分からなかったことだ。

研究者は手当たり次第、餌を探した。水産総合研究センターウナギ統合プロジェクトチーム(神奈川県・みなとみらい)の田中秀樹氏らがアブラツノザメの卵が餌として有効であることを見つけたことがターニングポイントとなり、2002年には、仔魚をシラスウナギにまで変態させることに成功。2010年には、長年の努力が実を結び、ついに完全養殖が実現した。とはいえ、これは実験室レベル。次の目標は、シラスウナギの量産化である。

これまでは、10リットル のボール型の水槽に仔魚を飼育し、1日に5回、アブラツノザメの卵にビタミンなどを加え、ペースト状にした餌を与えていた。餌を与えると、水が汚れるので、毎日仔魚をサイホンやピペットで新しい水槽に移しかえる。この方法は、大変な労力を伴う上に、得られるシラスウナギ1つの水槽に10尾程度だ。

「飼育システムを効率化し、シラスウナギを1万尾規模で安定生産できる飼育方法を開発しています」と同センター主任研究員の増田賢嗣氏は話す。水槽の形から、給餌方法や水槽の洗浄方法など各プロセスを詳細に検討し、地道な工夫を重ねることで、少しずつ飼育規模を大型化させた。その結果、2014年には1 トンの大型水槽での飼育が可能になった。この水槽で2万8000尾の仔魚を飼育し、441尾をシラスウナギにまで変態させることができ、量産化への展望が大きく開けた。

執筆者プロフィール

佐藤 成美(サイエンスライター) 

佐藤 成美(さとうなるみ) サイエンスライター、明治学院大学非常勤講師(生物学)、農学博士。食品会社の研究員、大学の研究員、教員などを経て現在に至る。研究所の広報誌やサイトなどにも原稿を執筆している。著書に『「おいしさ」の科学』(講談社ブルーバックス)『お酒の科学』(日刊工業新聞社)など多数。

<記事提供:食の研究所
JBpress、 現代ビジネス、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインの4つのビジネスサイトが共同運営する「食」の専門ページ。栄養士が勧める身体にいい食べ 方、誰でも知っている定番料理の意外な起源、身近な食品の豆知識、食の安全に関する最新情報など硬軟幅広い情報を提供。
食の研究所はこちらhttp://food.ismedia.jp/

食の研究所 バックナンバー

おすすめ記事



食品メーカーなど8000社導入!製品規格書クラウド管理システム BtoBプラットフォーム 規格書

メルマガ登録はこちら