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難しすぎる!機能性表示食品の課題多きスタート -消費者の判断力に委ねて大丈夫なのか

白田 茜(フリーランス記者)  2015年04月22日

臨床試験を行う場合、「UMIN臨床試験登録システム」を経る必要がある。聞き慣れない言葉だが、これは臨床研究計画の概要を研究開始前に第三者機関に登 録し、インターネットで公開するシステムのことだ。事前公開で、臨床試験後に当初の研究目的とは別の都合のよい結果のみを採用することを防ぐ。また、ポジ ティブな結果だけでなくネガティブな結果も伝わることで、過大評価を防ぐ目的もある。

臨床試験の結果は、例えば「CONSORT声明」と呼ばれる国際的にコンセンサスの得られた指針などに準拠した形式で、専門家が水準に達したと認める「査読付き論文」で報告する。誰からでも適切に研究内容を評価できるようにし、研究の実施や公表が恣意的にならないようにする。

一方、研究レビューによる評価では、同質の研究をまとめバイアスを評価しながら分析・統合を行う「システマティック・レビュー」による実証が必要になる。ポジティブなデータだけではなく、ネガティブなデータの双方から総合的に評価する。

機能性を証明するためには、誰が同じ手法で試験やレビューを行っても同じ結果が得られるという「再現性」が必要だ。これだけを見ても、機能性食品の表示をするためには厳しい要件をクリアしなければならないことが分かる。

果物、野菜にも機能性表示

果物に機能性表示する例も出てきそうだ。静岡県浜松市の「JAみっかび」では、温州ミカンに多く含まれる抗酸化物質で骨粗しょう症リスクを抑える「β-クリプトキサンチン」という成分の機能性を表示した出荷ラベルの表示を始めるという。

科学的根拠については、農業・食品産業技術総合研究機構の「果樹研究所カンキツ研究拠点」が浜松医科大、浜松市と共同で三ケ日町住民を対象に2003年から実施してきた疫学調査が根拠になっている。

今後、農林水産省などの協力を得て専門家によるレビューを実施する。専門家による機能性の詳しい検証と表示内容の検討、消費者庁への届け出の後、早生(わせ)品種の出荷が始まる11月からスタートする予定だ。機能性表示は、「本品はβ-クリプトキサンチンを含み、骨の健康を保つ食品です」「1日に34個を目安に」といった表現を検討しているという。

国も農作物の機能性表示について積極的だ。農林水産省は20億円の予算をつけて、ミカンや緑茶、ほうれん草など11品目の農作物の機能性成分について、システマティック・レビューを行っている(「機能性を有する農林水産物に関するデータ収集等の取組について」)。

今後も、農作物への機能性表示は相次ぐのだろうか。だが、これには懐疑的な意見もあるようだ。求められる科学的根拠が厳しく、要件をクリアできる農作物は限られるという見方もある。また、農産物は、自然環境や生産地による影響を受けやすく、栄養成分がばらつきやすい。そのため、品質をどうやって安定させるかが課題になる。

消費者に判断できるのか?

20145月の記事「後を絶たない健康食品の被害、消費者庁が管理強化へ」でも触れたように、新制度に対応できないいわゆる健康食品は淘汰されていくかもしれない。新制度について消費者委員会が安倍晋三首相に出した答申書でも、「科学的根拠の無いイメージ広告等に対する行政処分をより強化すべき」いう意見が出ている。消費者庁は、いわゆる健康食品を厳しく取り締まる方針だ。

執筆者プロフィール

白田 茜(フリーランス記者) 

白田 茜(しろた あかね) 1978年佐賀県生まれ。 佐賀県庁で食品のブランド化に関わる。その後、大学院で農業政策や食品安全に関するリスクコミュニケーションを学ぶ。
食品コンサルタント会社を経て、現在は社会的関心が高い科学ニュースについて専門家のコメントを収集しジャーナリストに提供する活動をしている。関心のあるテーマは、農業、食品流通、食品安全、リスクコミュニケーション。

<記事提供:食の研究所
JBpress、現代ビジネス、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインの4つのビジネスサイトが共同運営する「食」の専門ページ。栄養士が勧める身体にいい食べ方、誰でも知っている定番料理の意外な起源、身近な食品の豆知識、食の安全に関する最新情報など硬軟幅広い情報を提供。
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