食の研究所
菅 慎太郎(株式会社味香り戦略研究所) 2015年02月25日
「食中毒」というと、O-157やノロウイルスなどの発生事件を思い浮かべて、あってはならない恐ろしい出来事だというイメージを抱くかもしれません。
しかし食品は、条件が揃いさえすればいつだって腐敗し、細菌が繁殖します。その状態の食品を食べたり接触することによって、食中毒は容易に発生し得るのです。
ここに興味深いデータがあります。厚生労働省が毎月発表している「食中毒」の月別発生状況です。平成24年と平成25年の1年間の発生人数をグラフにしてみました。
出典:厚生労働省
いちばん発生人数が多い季節はいつでしょうか。おそらく皆さんの多くが夏だと答えられることでしょう。
しかし、答えは夏ではありません。なんと冬まっただ中の12月に急増しているのです。
食中毒といえば、夏場の蒸し暑い環境下に置かれた食品や、密閉された袋の中で腐敗が進行するという状況を想像することと思います。しかし、発生件数を見ていくと、冬に発生していることが多いのです。むしろ夏場は月別で2000人を下回る件数で推移しています。
飲食店や食品工場などに勤めた経験がある人はご存知かと思いますが、食べ物が腐敗するには3つの条件が必要だと言われています。それは、「栄養」「水(湿度)」「温度」です。
栄養とは、食品そのもので、食べるものすべてがその条件を有しています。これに水(湿度の高い環境も同様)があることで、細菌が繁殖する条件が揃います。さらに、細菌が繁殖しやすい「温度」になることで、繁殖が進みます。
よく聞く“都市伝説”の1つに、「ファストフードのハンバーガーが腐らないのは防腐剤のせいだ」というものががあります。しかし、単純に塩分と水分量の関係で「乾燥」するから腐らないだけであり、何か不都合な添加物が入っているなどということではありません。ミイラが腐らないという原理と同じだけの話なのです。
密閉されたジッパー付きの袋に入れておくと、水分の逃げ場がなくなりますので、防腐剤が入っていても腐敗は起こります。よって、「腐る食品だから本物だ」というのは、単なるイメージに過ぎないのです。
食中毒は外食産業や加工食品だけの話ではありません。家庭でも十分起こり得る話です。
肉や魚と一緒に野菜などを切るまな板や、十分乾燥されていないフキンなどは、細菌繁殖の温床です。さらに、多くの人が油断しているのが「冷蔵庫」内での細菌繁殖です。
「温度が低ければ細菌は増殖しない」と考えがちですが、マイナス15℃以下にならなければ、活性が止まることはなく、ゆっくりですが、細菌繁殖は進みます。「冷蔵庫に入れておけば大丈夫」というわけではなく、繁殖のスピードを抑制するだけに過ぎないことを肝に銘じなければなりません。
先の統計で「冬場に食中毒が多い」ことも、間違ったイメージや知識が原因になっています。つまり、寒い季節だから「腐敗や細菌が繁殖することはない」という一方的なイメージを持ち、肉や魚を十分に加熱(食材の中心温度が75℃以上で1分以上の加熱)せずに食べてしまう。また、生の食材を扱った手洗いやタオル、フキンなどを消毒せずに使ってしまう。そうした不衛生さが原因となり、食中毒が発生しています。
さらに冬場は、牡蠣など貝類のノロウイルスの発生も、発生件数の上振れ要因となっていることでしょう。腐敗する条件を避けることや、細菌を発生させない衛生管理への理解と行動が、食中毒を防ぐことにつながるのです。
株式会社味香り戦略研究所味覚参謀、口福ラボ代表。味のトレンドに特化したマーケティングの経験を生かし、大学での講義や地方での商品開発や地域特産物の発掘、ブランド化を手がける。
キッズデザインパーク講師。日本味育協会認定講師。
<記事提供:食の研究所>
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