メニュー誤表示を考える

なぜ「メニュー誤表示」が起きたのか?(前編「食の最新事例研究と法的見解」)

中村 啓一(公益財団法人食の安全安心財団)  2013年12月25日

今年10月から 11月にかけて、全国のホテルや百貨店、レストランで表示と異なる食材を使ったメニューの提供が次々と明らかになりました。マスコミによるメニュー誤表示 の報道が相次ぎ、情報が錯綜する中、株式会社インフォマートは業界に「正しい理解」を提供することが業界貢献になると考え、東京と大阪で「メニュー誤表示 セミナー」を開催しました。

特集前編「食の最新事例研究と法的見解」では、テレビなどで食の表示に詳しいコメンテーターとして活躍する中村啓一氏に最新事例と表示内容の是非を、後編 「事業者が知るべき景品表示法とは」では、消費生活コンサルタントの森田満樹氏に景品表示法のなりたちと運用方法、事業者がとるべき対策を解説していただ きました。

【後編「事業者が知るべき景品表示法とは」】はこちら

最新事例研究と法的見解

中村啓一
公益財団法人食の安全安心財団事務局長

 今回は連日報道されているホテルやデパートのメニュー誤表示問題についてざっくばらんにお伝えしたいと思います。

3パターンの誤認問題報道

 まず、最初に全体像を以下の表にまとめました。現在出ている色々な問題の個人的見解を○×で示しました。

■メニュー誤表示騒動一覧

メニュー誤表示騒動一覧

※個人的見解を含みますので、取扱にご注意ください。

 今回の誤表示問題に見られる違いというのは以下の三つのパターンに分けられるのではないかと考えています。

(1)事実と異なる表示をし、結果的に偽装といわれるパターン。
(2)表示の根拠があれば違反とは言い切れないパターン。「鮮魚」とか「自家製」という表示が当てはまります。
(3)説明不足のため消費者に誤認を与えたというパターン。これは、牛脂注入肉という表示がなかったビーフステーキのケースが当てはまります。

(1)「偽装」といわれてしまうパターン

「神戸ポーク」を「霧島ポーク」、他県産の豚を「沖縄まーさん豚」、普通ネギを「九条ネギ」、「ブラックタイガー」を「車海老」、「バナメイ」を「芝海老」というように、産地や地域のブランド、品種、銘柄を変えた場合、どんな理由があれ、うそといわれても仕方がありません。
また、「地鶏」という言葉は結構安易に使われていますが、地鶏はJASの規格で飼育方法、飼育期間が非常に厳密に決められています。

<参考資料>農林水産省「地鶏の日本農林規格第3条」
地鶏肉の生産の方法についての基準は、次のとおりとする。
飼育期間 ふ化日から80日間以上飼育していること
飼育方法28日齢以降平飼いで飼育していること
飼育密度28日齢以降1m2当たり10羽以下で飼育していることと定めていること

 それから有機野菜ではない野菜を「有機野菜」として提供したケース。有機野菜は来年から作ろうと思っても作れるものではありません。JAS規格に従えば、まず2年以上前に土作りからはじめなければなりません。そうでなければ、有機と名乗る野菜は出荷できないと決まっています。

 魚介類の名称については、水産省がガイドラインを出しています。外食には適用されませんが、メニューに表示する際には気をつけなければなりません。

(2)表示に根拠があればOK

●鮮魚
 まず、「旬鮮魚のお造り」。鮮魚という言葉なのに、解凍したマグロを使っていたため「ごめんなさい」ということになりましたが、これは容認の範囲だと考えております。なぜならば、行政用語で冷凍したもの、あるいは解凍したものに「鮮魚」という言葉を使用しているためです。

<参考資料>農林水産省「生鮮食品品質表示基準」
生鮮食品――加工食品(加工食品品質表示基準(平成12年3月31日農林水産省告示第543号)第2条に規定するものをいう。)以外の飲食料品として別表に掲げるものをいう。
別表3 水産物「ラウンド、セミドレス、ドレス、フィレー、切り身、刺身(盛り合わせたものを除く)、むき身、単に冷凍及び解凍したもの並びに生きたものを含む」

 

<参考資料>厚生労働省「冷凍食品規格基準」
生食用冷凍鮮魚介類「冷凍食品のうち切り身又はむき身にした鮮魚介類であって、生食用のものを凍結させたもの」

 冷凍したものも解凍したものも生鮮食品、生鮮水産物に含むということです。

 行政が使っている言葉を民間のメニューで使ったら誤認に当たる、ということになるのでしょうか?私は決してそうではない、というふうに言い続けています。

●「フレッシュ」ジュース
 「フレッシュジュース」の件に関しては、ストレートジュースの中身が何かによって判断が違います。市販されているジュースをコップに入れて出しているのに「フレッシュ」の表示はだめです。しかし、繁忙期に備えてあらかじめ絞っておく、あるいはそれを冷凍し、解凍して使って「フレッシュ」といってはいけないか、という場合、また判断が分かれます。

<参考資料>消費者庁「果実飲料品質表示基準」
第6条加工食品品質表示基準第6条各号に掲げるもののほか、次に掲げる事項は、これを表示してはならない。ただし、(3)に掲げる事項については、果実ジュースであって、かつ、原材料に果実の搾汁及び天然香料以外のものを使用していないものに表示する場合は、この限りでない。
(1)生、フレッシュその他新鮮であることを示す用語
(2)天然又は自然の用語
(3)純正、ピュアーその他の純粋であることを示す用語
(4)第3条の規定により表示すべき事項の内容と矛盾する用語

 

<参考資料>果実飲料公正取引協議会「果実飲料などの表示に関する公正競争規約」
2-(1)客観的根拠に基づかない天然、自然、生、新鮮、フレッシュなどの表示は不当表示に該当する。
【注意事項等】
・果実飲料等における主原料である果汁は、自生(野生)の果樹から採取された果実を搾汁したものではなく、栽培された果樹から収穫された果実を搾汁したものであることから、「天然」あるいは「自然」には該当せず、また、果実飲料等の製造に当たっては加熱処理等の工程を経ていること等から、「生」あるいは「新鮮」等にも該当しない中で、客観的な根拠のないままに当該製品に「天然」や「新鮮」等の表示を用いることは、消費者に誤認を与えることから、不当表示に該当するとしている。

●手作りチョコソース、手ごねハンバーグ
 それから「手作りチョコソース」というのがありました。よくメディアの方から「市販のチョコレートソースにミルクと混ぜて手作りといって、これはけしからんのではないか」という話をよく聞きます。そもそも、チョコレートは手作りが無理で、工場で作られるものです。市販の物を溶かして使って手作りといってはいけないのであれば、バレンタインで女の子が配るチョコレートはみんな偽装かという話になりますね。
それから「手ごねハンバーグ」。これも手ごねの根拠が示せれるかで、判断が分かれます。

●レッドキャビア
 また、「レッドキャビア」について。マスの卵を使っていないと問題視されましたが、レッドキャビアの公的な定義はありません。とびっこをレッドキャビアとして販売している卸業者もいます。それを仕入れて販売している方は、とびっこをレッドキャビアと思い込んでいるかもしれませんね。この件は優良誤認でもなんでもありません。

(3)説明が不十分で「優良誤認」

三つ目は、説明が不足して消費者に誤解を与えたというケースです。その中でも、牛脂注入牛肉をビーフステーキと表示し、優良誤認になったというケースが一番多いのではないでしょうか。

成形肉および牛脂注肉の表示について消費者庁は食品表示「Q&A」で、牛脂注肉は霜降りなどの表示は禁止していますが、ビーフステーキの表示は禁じていません。ただ牛脂注入加工肉ということを明瞭に記載することを求めています。

<参考資料>「消費者庁HP よくある質問コーナー Q56」
Q.牛脂注入加工肉を焼いた料理のことを「霜降りビーフステーキ」等と表示すると景品表示法上問題となることは分かりましたが、では、具体的にどのように表示すれば問題ないでしょうか。
A.(略)牛脂注入加工肉を焼いた料理について、「霜降り」の表現は使わないものの、「ビーフステーキ」、「やわらかビーフステーキ」と表示した場合、この表示に接した一般消費者は、牛の肉を焼いた料理であると認識します。牛脂注入加工肉は、牛の肉を加工したものであり、「加工食品」としての「食肉製品」に該当します。牛脂注入加工肉は、もともとは牛の一枚肉を使用したものですが、加工を施すと「生鮮食品」の「肉類」には該当しません。したがって、牛脂注入加工肉のことを「ビーフステーキ」、「やわらかビーフステーキ」と表現する場合には、例えば、「牛脂注入加工肉使用」、「インジェクション加工肉を使用したものです。」というように、この料理の食材が牛脂注入加工肉であることを明瞭に記載すれば、直ちに景品表示法上問題となることはないでしょう。明瞭に記載するというのは、例えば、商品名と同一ポイントで商品名近傍に併記するなど、一般消費者が当該料理について「生鮮食品」の「肉類」に該当する「一枚の肉」を焼いたものと誤認しないように表示することをいいます。「ビーフステーキ」、「やわらかビーフステーキ」の文字と掛け離れたところに記載したり、小さい文字で記載し、一般消費者が視認困難な場合には、景品表示法上問題となります。

 しかし、ビーフステーキと表記しても良いが併記しないと違反になるということはこのQ&Aで初めて明記されており、これまで出た措置命令から読み取れません。このQ&Aが作成された平成23年に業界に周知されていなかったため、今回改めて問題になりました。いつ誰が作ったかはっきりしておらず、行政サイドにも問題があったと言えそうです。

よくある質問

ここで、よく事業者など現場の関係者から寄せられている質問を紹介します。

Q.冷凍したら「生」といえない?
A.ものによって考え方が違うため、一言で言えません。

通常生で食べられるもの
(例・マグロ)
生といえない。解凍したものと区別するために、冷凍していないものに「生」の表記をしている。
通常茹でた状態で流通しているもの
(例・カニ)
生といえる。茹でないで冷凍したものにも「生」の表記あり。
生菓子
(例・ロールケーキ)
生といえる。鮮度を保持するために冷凍する場合あり。製品の水分量などで「生」といえる。

このように、生と言えるかどうかは、物と状況を加味した判断が必要になります。

Q.「築地直送」という表記は問題?
A.築地は中卸も含めて水産物の集分荷機能を持つ施設です。日本中のものが集まって分解していくということから、築地直送が特定の産地を表しているわけではありません。事実なら表記しても問題ないはずです。

Q.メニューに「特選」という用語は使用できないか?
A.消費者庁は根拠がない「特選」という言葉は優良誤認になるとしていますが、巷では特選という言葉があふれていますね。生産者が特選という場合は、選別に使う意味あいが多いです。では、メニューとしてはどうでしょうか?「忘年会用●●店特選」というメニューは、宴会用として選んだ特選という言い方をします。特選の意味は何かということを消費者に説明できればよいでしょう。

Q.わらび粉を使わない「わらびもち」は偽装か?
A.商品特性や品種を示す名称として容認されているものもあります。奈良漬や野沢菜も、奈良県や長野県産でなくても問題ありません。名称と原料が一致しないから優良誤認というわけではなく、食生活の中で容認されている部分もあります。

準備不足が大きなメディア報道に発展

 なぜ今回、こんな大きな騒ぎになったのか、ということをお話します。一つは、公表側の準備不足。もう一つは、報じる側の勉強不足です。

 あるホテルの誤表示に関する記者会見の最中に、メディアの方から連絡があり、公表資料を送っていただきました。資料を見ると、事情の違う問題を一律に誤表示として公表しており、公表する側もしっかりと準備ができていたのかなと疑問に感じました。なんなく急遽記者会見をやることになり、質問にも十分対応できていない、という印象を受けました。

 それともうひとつ、取材する側も素人でした。今回、取材されているみなさんは表示制度についてよくわかっていなかった。ですから、なんとなく公表する側も取材する側もともに制度の理解が十分できておらず、そのまま報道されてしまっていなかったのではないか、という風に感じています。結果、誤解をした報道が見られ、消費者も困惑したというのが今回の問題ではないかという考えです。

JAS法は外食も手作り惣菜も対象

 それと、報道の中で誤解されたままになっているものがあります。外食の表示がJAS法対象じゃないという報道されていますが、実は外食あるいは手作り惣菜も、JAS法に基づく品質表示基準の表示対象となります。JAS法というのは酒類あるいは医薬品これを除くすべての飲食用品を対象にしています。ですから、外食も対象になります。

 事業者が守るべき表示の基準は法律で決まります。その一方、事業者の自主的な表示の基準は、JAS法に基づく加工食品品質表示基準で決まります。加工食品の容器又は包装に表示すべき事項を決めるというもので、外食企業が加工食品を販売する場合もこの基準に当てはまります。

 しかし、製造して直接販売又はその場で飲食する場合、例えば飲食店の対面販売やその場で作ってショーケースで販売する時は、表示義務の対象にはなりません。消費者と生産者が同じ場所におり、直接コミュニケーションが可能であるためです。

 外食には表示は必要ないということではありません。事実、チェーン展開している飲食店は情報提供をメニューのみに頼らず、ホームページなどで食材の産地やあるいはアレルギー標示詳細な情報を提供しています。しかし、家庭の料理の延長で日々仕入れて日々メニューを考えている家内営業的な事業者に、大手とまったく同じことを求めることができないでしょう。やはり外食における情報提供というのは画一的な規制ではなく事業者の自主的な取り組みを促す施策が求められると考えています。

今、何をすべきか?

今回の問題を契機に、飲食店は今すぐメニューの総点検をすべきです。とくに仕入先からの情報を整理し表示と食い違いがあるもの、事実に反する表示があるものは理由を問わず排除すべきです。

 そして、一番大切なのは社内体制の再確認です。多くの加工食品企業は牛肉偽装など、過去のさまざまな表示偽装問題を契機に社内体制を大幅に見直しています。飲食店は改めて、(1)品質管理部、(2)お客様相談室、(3)広報の体制を見直しましょう。

(1)品質管理部門例えば、加工食品企業ではかつて品質管理部が社内で十分な権限を持てず、営業や生産の現場に口を出せなかったという例もあり、そういうところが大きな問題に発展していきました。現在、多くの加工食品企業は品質管理部門のトップに取締役をつけるなどして品質管理を強化しています。

(2)お客様相談室
お客様相談室がクレーム処理係になっていないか、お客さんのクレームがきちんと精査され情報として幹部に上がるという仕組みになっているか確認してください。

(3)広報
広報の手違いは会社を潰し、トップの首を飛ばします。広報はなにかあったときには非常に大切なポジションです。この3つの連携がなければなにかあったときのリスク管理が十分できないでしょう。

最後に、メニューは楽しく面白いものであってよいものです。しかし、消費者に問われたときに説明できる根拠を明確にしておきましょう。

【後編「事業者が知るべき景品表示法とは」】はこちら

 

参考資料一覧

 

執筆者プロフィール

中村 啓一(公益財団法人食の安全安心財団) 

公益財団法人食の安全安心財団事務局長。昭和43年農林水産省に入省し、主に食品産業・食品流通関係行政を歴任。近畿農政局時代にBSE、雪印食品問題を担当、以来、10年にわたり食品表示の監視業務に携わり、ミートホープ事件初め様々な食品偽装や事故米問題を担当。 現在は、公益財団法人食の安全・安心財団の事務局長として、食に関わるリスクコミュニケーションの研究と実施を中心に活動。

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