食物アレルギーコラム

食の情報が生活を豊かに

田中あやか(フードコミュニケーション デザイナー)  2011年12月22日

 2011年1月より食物アレルギーをテーマに連載してきた本コラムも、今回で最後となります。最終回はこれまでご紹介しきれなかった食物アレルギーの方の声や、データ、論文を中心に取り上げ、加工食品や外食における「情報」の重要性についてあらためて考えたいと思います。

研究論文-加工食品編

経営情報学会「携帯電話による食の情報提供の可能性と課題(2009年田中、折田、小川)」より

■はじめに
 加工食品の場合、食品に関する基本的な情報は容器包装に表示を行うことが食品衛生法等の法律で定められています。複数の法律にまたがるため、表示のルールが複雑で、事業者にとっては表示が作りにくく、一般消費者にとっては分かりにくい状況になっています。そのため、厚生労働省は食品メーカー に対し、より詳細な情報提供をすることが望ましい食物アレルギー表示に関して、ホームページなどを用いて公開することを勧めていますが、具体的な情報項目や情報提供方法についてのガイドラインはありません。また、食品メーカーにとっては、詳細な情報提供が企業秘密に関わる場合がある、あるいは、手間とコストを必要とする、といった理由もあり、積極的な情報開示を行う企業はまだまだ限られています。

■食品の情報を入手する媒体は?
 下記は食品に関する情報を入手する方法について、あるスーパーの組合員を対象に2009年3月に実施した「携帯電話を活用した食品の情報提供についてのアンケート」の結果です。

商品情報をどのような方法で知りたいか(複数可)

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□PC: PCによるアンケート回答者
■携帯:携帯によるアンケート回答者

 食品の情報を知る手段としては、「チラシ」が90%以上と最も多く、「PCサイト」と「携帯サイト」が続きます。「店頭の表示」や「店員の説明」という回答は約9~10%と少なく、知りたい時に気軽に知ることができる方法が好まれていることが分かります。

 ただし、チラシは情報提供の手段として有効な媒体である一方、アレルギー情報等の情報量が多いコンテンツには向きません。また、店頭の表示や店員の説明よりも、携帯やPCサイトのニーズが高いことから、今後はITを用いた情報提供の拡充を図ることが必要です。

■食品表示で重視する項目は「原材料情報」
 次に、「食品表示で気にして見る項目」について「アレルギー患者とその家族」「非食物アレルギー患者とその家族」に対して比較調査を行った結果、どちらもアレルギー情報よりも原材料情報を重視していることが分かりました。食物アレルギー患者にとっては、アレルゲンや重症度は人により様々で、特定原材料(義務・推奨)25品目以外がアレルゲンの場合や、アレルゲンがどの原材料に含まれるか(由来原材料)を知りたい場合もあるため、アレルギー表示対象の25品目だけでは不十分な場合があります。また、非食物アレルギー患者とその家族は、原材料を見て添加物や遺伝子組換え作物などの情報を判断しています。 


■まとめ~情報公開が消費者のQOLを高める
 これらの調査から、原材料の情報をPCや携帯のサイトで公開することは、アレルギー患者家族だけでなく、一般の消費者にとっても有益な情報になる可能性があることが分かります。食物アレルギー情報に限らず、ダイエットや成人病など、個人のニーズごとに詳細な商品情報を編集して提供することができれば、食品情報の価値を引き出すと同時に多くの人のQOL(Quality of Life)を高めることに貢献できるのです。

研究論文-外食

日本フードサービス学会研究論文「顧客と店員のコミュニケーション支援に関する研究:ITを活用した外食店における食物アレルギー情報提供(2010年小川、田中、野田、河合)」より

■はじめに
 食物アレルギーを持つ人にとっても、外食は日常生活を送る上で必要なものであり、「外食を楽しみたい」というニーズが高いことが分かっています。ここでは食物アレルギーの子を持つ親の会の会員に行ったアンケート調査結果をもとに、食物アレルギー対応に関心を持つ外食企業とアレルギーを持つ人を適切な情報でつなぎ、コミュニケーションを促進する方法について考えていきます。

■「外食の食物アレルギー対応に関するアンケート調査」(2010年3月実施)
※患者家族の日頃の外食行動、外食時の情報行動、発症経験を把握し、コミュニケーション課題を分析するため、食物アレルギーの子を持つ親の会の会員にアンケートを郵送し252名から回答を得た。

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外食頻度
 食物アレルギー患者とその家族の外食利用頻度を調査したところ、約半数が月1回以上と回答しました。

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発祥経験
 また、外食による発症経験を持つ家族は44%にのぼりました。発症時の「店の対応、意見」に対する自由回答欄の記述は97件あり、その中で「アレルギーを発症したことを店に言わなかった」旨の記述が25件(25.8%)ありました。理由としては、「軽症だった」、「慌てていた」、「言いにくかった」、「伝えることによりアレルギー対応を止めてほしくないから」などが見られました。外食事業者は店舗での発症実態を全て把握できていないことも多く、自社にとっても患者家族にとっても適切なリスク対応策がとれていない可能性があります。

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外食店舗で必要なアレルギー対応
 外食頻度の結果と合わせて見てみると、頻度が高い人々は、低い人々より、「アレルギー一覧表」、「コンタミネーション対応」の必要性を認識しています。また、「店員教育」は両群とも約90%が「必要」と回答しています。外食では、情報提供だけでなく、接客する店員に知識を持たせることも重要です。

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表示項目/必要なアレルギー情報
 アレルゲンとなる食品を調査したところ、特定原材料7品目をあげた患者が多い一方、ゴマ、米など表示義務/推奨25品目以外にアレルギーを持つ患者、複数のアレルゲンを持つ人もいました。必要なアレルギー情報については、「全原材料表示」と回答する人が最も多い結果となりました(77%)。

 外食産業で提供するアレルギー一覧表では、特定原材料や25品目に限ったものが多いようですが、食べる意思決定する情報としては、加工食品と同様に、全ての原材料表示が望まれています。

■まとめ~外食の課題は原材料の情報不足と店員の知識不足
 これらの調査結果を総合し考察すると、メニューを選択する際の「原材料情報の不足」と「店員の知識不足」がコミュニケーション課題となっていると言えます。その他、患者とその家族(おもに親)の想いとして、「“アレルギー専用”ではなく、“お子さまランチ”といった名前ならもっと良い」「他の子と同じようにファストフードやファミレスが使えると嬉しい」といったように、アレルギーのない子供より外食が制約されるだけに「他の子と同じようにウチの子にも外食を楽しませたい」といった親心や、外食産業への期待が窺えます。

情報提供施策

 上の調査結果でも明らかになったように、食物アレルギー情報はただ公表するだけでなく、「質の高い情報」である必要があります。自社の提供している情報が下記の条件を満たしているか、あらためて確認してみてください。

<質の高い情報の条件>
詳細な情報    :原材料情報、アレルゲンの個別表示
情報の鮮度    :更新日時
アクセスの容易さ :店頭での一覧表、ホームページ等
分かりやすい表現:凡例の明示、用語解説、デザイン、食べられるもの検索

また、これらの情報を「紙(メニューブック等)、IT(PC/携帯サイト等)、ヒト(店員)」などのメディアを組み合わせて提供する際には、それぞれ注意点があります。

<各メディアの特徴>
紙 :誰にでも見やすいが、最新情報の維持が難しい。店外では見ることができない。 IT :店外でも閲覧でき、いつでもアクセス可能。機器を持っていない人には届かない。 ヒト :良い対応であれば満足度が高いが、知識レベルは人それぞれ。

 質の高いアレルギー情報を提供し、情報の不確実性に対する不安・落胆を緩和するためには従業員教育が有効ですが、流動性の高いアルバイト店員へ浸透させるのは困難です。そこで、店員の知識不足や記憶違いを防止できるITや紙の情報ツールを用いて情報武装させる方法がお勧めです。

食物アレルギーの方の声

 最後に、研究調査の中で食物アレルギーの方やその家族の方に伺ったお話の中から、印象的なコメントをご紹介します。

 「“食べること”なくして社会生活は不可能です。外食できず、惣菜も買えなくては、人として社会生活が営めず、人生を困難にしてしまいます」

 「もっと手軽にアレルギー情報を知ることができれば、今まで無理だろうと思っていた食品も、利用できるかもしれません。食事はただお腹を満たすだけでなく、大切なコミュニケーションの場です。安心して、いろんな情報を知ることができれば、今後の生活も変わってくるのではないでしょうか」

 「紛らわしい表示がないこと。全原材料を事前、または来店時に簡単に確認できること。要望に応じて、一部材料を変更してくれること。店員に知識があること。低アレルゲンメニューよりも、普通のメニューにアレルゲンを含まない工夫をした普通の料理が何種類か含まれていること。我が家にとっては以上のことが大切です。店頭やHPに原材料一覧を提示してくださると、本当に助かります。良心的なお店、協力的なお店が増えることを期待します」

 今までこのコラムでご紹介してきた「見やすく、分かりやすい表示」を行うことは、このような「声」に応えることにつながり、食物アレルギーを持つ方の健康とQOLの向上の第一歩となります。

最後に

 食物アレルギー対応は、社会的貢献(CSR活動)であり、一部の方に対する対応と思われがちですが、それだけではありません。高齢化による生活習慣病の増加や健康志向、信仰や生活スタイルなどにより、食生活の制約や特定のニーズを持つ人は今後増加していくと思われます。
 このような社会全体の傾向を考えると、食物アレルギー対応は「多様なニーズのうちの一つである」と考えることができます。つまり、食物アレルギー対応に取り組むことは、即時的な対応にとどまらず、変化の大きい消費者ニーズや社会環境に応えられる企業へと体質変化することを意味します。
 すべての人が安心して食を楽しむことができ、有益な情報提供が適切になされる企業が増えることを期待しています。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。私自身、コラムへの執筆を通して、食物アレルギー対応について考え直すことができ、とても勉強になりました。今後も「企業と消費者のちょうど真ん中」の視点に立って、両者をつなぐ活動や提案を続けて参ります。1年間に渡り、お付き合いいただきありがとうございました。

執筆者プロフィール

田中あやか(フードコミュニケーション デザイナー) 

慶應義塾大学SFC研究所所員、ほっとFOODnet代表、食品表示管理士、食育指導士。2008年より、東京海洋大学にて、ITを用いた食の情報公開と活用について共同研究を行う。
特に食物アレルギー情報に焦点をあてた調査研究で、複雑かつ膨大な食の情報を携帯電話などの身近なIT技術を使って消費者に届ける方法を探っている。

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