食物アレルギーコラム

多くの人が選びやすいメニューや商品にするために

田中あやか(フードコミュニケーション デザイナー)  2011年11月24日

 これまでのコラムでは、食物アレルギー対応の注意点や情報の扱い方について考えてきました。しかし、実際に対応レシピの考案や表示方法の変更を行うには、具体的にどこから始めれば良いのか悩ましいことと思います。今回は、アレルギーを持つ子どもと親の会「アレルギーっ子の会 マザーツリー」の皆さんの協力を得て、多くの人が選びやすい低アレルゲンメニュー案や表示の方法をご紹介します。低アレルゲンメニューは、外食のメニューを想定して作成しましたが、そのまま加工食品にも応用できる内容ですので、ぜひ参考になさってください。

「アレルギーっ子の会マザーツリー」2005年設立。アレルギーを持つ子とその保護者のためのサークル。神奈川県藤沢市で活動中。

低アレルゲンメニュー

■ 嬉しいけれど、実際は利用しないという声も…

 食現在、ファミリーレストランなどで食物アレルギー対応用として提供されている低アレルゲンメニューについては、「本当にありがたい」「提供している店が増えてきて助かる」「外食産業で食物アレルギーの理解が進んできた証でもあり、安心して外出ができるのでとても嬉しい」という声がほとんどでした。しかし、実際に低アレルゲンメニューを利用していますか?という問いには、「良いと思うけど、うちは食べない」「他に選択肢がないから食べるけど、もっと他のものが良い」という声も聞かれました。全体としては高い評価であるにも関わらず、実際には利用しない理由はどこにあるのでしょうか?

低アレルゲンメニューを利用しない理由
・量が足りない
・年齢的に頼みづらい
・アレルゲンのミスマッチ

 食物アレルギーは乳幼児に多く、低アレルゲンメニューの多くは小さな子供向けのメニューとして提供されていますが、実際は小中学生や大人で食物アレルギーを持つ人もいらっしゃいます。また、アレルギーがあるお子さんに誤食の危険がないよう同伴の保護者が低アレルゲンメニューを食べたり、乳児にアレルギーがある場合は母乳に影響が出ないようにお母さんが除去食を食べることがあります。小さな子供向けだけでなく、大人でも満足できる量のメニューがあると、さらに多くの人に利用をしてもらえるのではないでしょうか。

 また、低アレルゲンメニューは「7大アレルゲン」を対象とするものが多いですが、「小麦はダメだけど他の特定原材料は抜かなくても大丈夫」「アレルゲンが7品目の中にはない。ゴマとリンゴも抜いて欲しい」というような「アレルゲンのミスマッチ」が起こる場合もあるようです。

 

■ みんなが嬉しい低アレルゲンメニューとは?

 そこで、小中学生以上で食物アレルギーを持つ人が選びやすく、さらに食物アレルギーがない大人でも満足できる「みんなが嬉しい低アレルゲンメニュー」についてマザーツリーの皆さんに考えてもらいました。

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和食、イタリアン
・子供向けのメニューにカレーライスやハンバーグはよく取り入れられているため、他のものがあるとよい。
・ カレーは自宅でも作りやすいメニューなので、レストランでは少し変わったものが食べたい。
・ 和食やイタリアンはシンプルな調理法なので比較的食べやすい。麺類はぜひ取り入れてほしい。

見た目、彩り
・盛り付けは大事。アレルギー対応のものは見た目が地味なことが多いのでがっかりする。プロが作ったものは盛り付けが違う。
・ ワンプレートランチはアレルゲンが入っていた場合、除去しにくいので小皿に分かれているのがよい。
・ コーンやプチトマトなど、少しでも彩り野菜が入っていると嬉しい。

味付け
・ アレルギーを持つ人は普段から薄味なことが多いので、味付けが濃すぎて食べられないことがある。基本は塩こしょうのみのシンプルな味付けにして、ソースは別添えにすると味の濃さが自分で調整できる。
・ ソースにアレルゲンや添加物が入っているため食べられないこともあるが、別添であれば除去しやすく、味のバリエーションが増えて様々な人に対応できるメニューになる。

野菜
・お子様向けメニューは野菜が少ない。蒸し野菜などであれば健康に気を使う人や女性にも人気があるのでは。

デザート
・1品でもいいので食べられるものがほしい。子供はアイスクリームに憧れている。シャーベットであれば、食べられる確率が高い

以上のような注意点と改善点を踏まえてできたのが、下記のメニューです。

「みんなが嬉しい低アレルゲンメニュー」
メイン: メカジキのグリルor豚肉のソテーor鶏肉の香草焼き
ソース: 和風きのこソースorトマトソース
主食: 米粉パン、ごはん
副菜: 温野菜(かぼちゃ・さつまいも・にんじん・ブロッコリー)
汁物: 味噌汁、スープ(米麺入り)
サラダ:緑の野菜のサラダ(ポン酢or青シソドレッシング)
デザート: シャーベットフルーツ添えor豆乳アイス

 いかがでしょうか?いかにも「食物アレルギー対応」という感じではなく、大人も子供も楽しめる、充実したメニューになっています。これなら、「食物アレルギーの方向け」として独立させることなく、たくさんの人に食べてもらえるのではないでしょうか。醤油の小麦など、多少のアレルゲンは入っていますが、細かい表示をつけることで、食物アレルギーの人が自ら判断をして食べることができます。そして、食物アレルギーの人でも食べやすいメニューは、野菜中心で薄味のヘルシーな料理になるため、高齢者や女性にも人気のメニューになりそうです。

 すでに低アレルゲンメニューがある場合や、子供向けメニューの提供が難しい場合は、追加してこのような料理を提供することで、食物アレルギーを持つ人の選択の幅が広がります。

■ 加工食品にも応用が可能

 また、今回は「外食メニュー」として提案しましたが、同じことは加工食品にも求められています。外出時や保護者が不在の時などに「みんなが嬉しい低アレルゲンメニュー」と同様の加工食品があれば大変便利です。「薄味で、ソースは別。添加物は極力使わずに野菜中心でシンプルな調理」は加工食品にも応用できる考え方ですので、加工食品の開発の際にも参考にしてほしいと思います。

食物アレルギー表示の工夫

■ 商品やメニュー選びには表示も重要なポイントに
 食物アレルギーを持つ人が選びやすいメニューや商品にするには、もう1つアレルギー表示(全原材料表示)も重要なポイントになってきます。マザーツリーの皆さんにあげていただいた、加工品やメニューの表示方法に対する具体的な要望を見てみましょう。

表示ミスの改善

・「乳」の表示があり、乳アレルギーのため食べるのをあきらめていたが、乳の解除が進み少量なら食べられるようになったため、お客様センターに問い合わせをして乳の由来原材料を聞いたところ、「乳化剤」だった。

例 : × ハンバーグセット(牛肉、卵、りんご)
○ ハンバーグセット
ハンバーグ(牛肉)、目玉焼き(卵)、
ソース(リンゴ)

○例のような書き方であれば、卵アレルギーの人も目玉焼きを除くことで食べることができる可能性が高まる。

小麦の表示
・アレルゲン表を見ると、ほとんどのものに小麦が入っていて食べられないことがあるが、醤油の小麦であれば大丈夫、という人も多い。全原材料表示と由来原材料があれば一番良いが、無理であればせめて醤油の場合だけでも分けて書いてほしい。

例 : × アレルゲン [豚肉・小麦]
   ○ アレルゲン [豚肉・小麦(醤油)]

分量の表示
・可能であればアレルゲンの量を開示してほしい。一括表示の表示順では、はっきりした量が分からないので、ホームページ等でアレルゲンだけでも分量が分かれば、アレルゲンの部分解除が進んだ際に食べられるかどうかが判断できる。 品目ごとの表示
・セットや付け合せのアレルゲンを全部一緒に書かないでほしい。定食の場合は、一皿ごとに分けて表示してほしい。

例 : × ハンバーグセット(牛肉、卵、りんご)
   ○ ハンバーグセット
      ハンバーグ(牛肉)、目玉焼き(卵)、
      ソース(リンゴ)

〇例のような書き方であれば、卵アレルギーの人も目玉焼きを除くことで食べることができる可能性が高まる。

 特に外食業界にはアレルギー表示義務がないため、表示方法がまだ確立されていません。上記以外にも、アレルゲンの個別表示を行い、ホームページ等で由来原材料または全原材料表示を公開していくなど、まだまだ改善できる点はありそうです。

株式会社ダイナック 岡角 江理さん

株式会社ダイナック
岡角 江理さん

■ 実際にアレルギー対応をしている外食企業は?
 そこで今回は、実際に外食企業としてアレルギー対応に取り組んでいらっしゃる、株式会社ダイナック品質管理部の岡角江理さんにお話を伺いました。外食におけるアレルギー表示のニーズの高まりを受け、株式会社ダイナックでは、昨年より「安心・安全への取り組み」としてアレルギー対応に力を入れているそうです。社員に対し食物アレルギーの知識教育、対応マニュアルおよびホールでのオペレーションフローの作成や、二次原材料を含めて由来原材料を記載したアレルゲン一覧表・原材料表を用意するなど、「対応と表示」を充実させています。現在、1店舗に導入を行い、今後は順次対応店舗を増やしていくとのことでした。

  アレルギー対応導入の苦労について伺ったところ、特に二次原材料の規格書情報の収集が大変だったそうです。農産物などはすぐに原材料として記載することができますが、加工食品を用いる場合は、正確な規格書情報が必要です。しかし、外食向けの加工食品の情報は共有の仕組みが整っていないため、メーカーに直接問い合わせをするなど、情報収集に時間がかかったとのことでした。

■ 規格書情報の共有で、表示の充実・ミスを防ぐ

 食物アレルギーの治療も、以前のような完全除去療法だけでなく、医師の指導のもとでの経口免疫療法も取り入れられています。そのため「使っているか、いないか」というような表示ではなく「何を、どのくらい使っているのか」という表示が求められています。ここで鍵になってくるのが、規格書情報の共有です。食材や商品の詳細な情報の流通がスムーズになることで、外食企業は表示の充実はもちろん現場のスタッフも適切に食物アレルギー対応をすることができ、加工メーカーは表示を作る際のミスの防止や業務の軽減、アレルギー対応食品の開発などにつながります。

 これまでもお伝えしてきたように、食物アレルギーを持つ人の年齢や重篤度は様々です。低アレルゲンメニューにプラスして「みんなが嬉しい低アレルゲンメニュー」のようなメニューや商品を提供し、適切な表示を行うことは、多くの人が選びやすい食品が増えることになります。そして、それは食物アレルギーを持つ人だけでなく、家族みんなが楽しめる幸せな場を提供することにつながっているのです。

執筆者プロフィール

田中あやか(フードコミュニケーション デザイナー) 

慶應義塾大学SFC研究所所員、ほっとFOODnet代表、食品表示管理士、食育指導士。2008年より、東京海洋大学にて、ITを用いた食の情報公開と活用について共同研究を行う。
特に食物アレルギー情報に焦点をあてた調査研究で、複雑かつ膨大な食の情報を携帯電話などの身近なIT技術を使って消費者に届ける方法を探っている。

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