食物アレルギーコラム

食物アレルギー情報開示の取り組み(加工食品)

田中あやか(フードコミュニケーション デザイナー)  2011年09月29日

 今回は、食物アレルギー情報の作成や公開について、実際に表示を作っていらっしゃる食品メーカー担当者の視点に立って、問題点を整理してみたいと思います。

食品表示の現状

「新商品の表示を作るのは本当に大変。特にアレルギー情報の開示には気をつかう」

 これは、先日ある食品メーカーA社の表示担当者にインタビューした際のコメントです。表示作成に携わったことがある方でしたら、皆さん共感されるのではないでしょうか。消費者から見ると「自社製品の原材料なんて社員は分かっているだろうし、それを表示するだけでしょ?」という感覚だと思いますが、実際に食品メーカーの方にお話を伺うと、簡単には作れないことや、一企業、一担当者の努力だけでは解決できない問題も含まれていることが分かります。

具体的にどのような部分が負担になっているのか、特に食物アレルギー表示に関連する部分を中心にA社の例をまとめます。

・情報管理 - 原材料が多岐に渡り、サプライヤーが複数ある
- 複合原材料(加工食材)の原材料把握
- 原材料を変更した際の情報更新
- 社内で情報が一元管理されておらず、各部署に確認が必要
・情報収集 - 食品表示に関する法律が複数あり複雑
- 法律改正等、最新情報の収集
・情報連携 - サプライヤーから提出される規格書のフォーマットがバラバラ
- 取引先が要求する規格書のシステムが複数ある
- それぞれのシステム間に互換性がない


 その他にも、「食品表示を学ぶための体系だったテキストはほとんどない。各省庁のホームページなどを使って勉強している」「表示担当者は自分一人であり、表示管理には神経を使う」というコメントを伺いました。各社ごとに多少の違いはあっても、表示担当者の悩みは共通する部分が多いのではないでしょうか。

他社との情報連携が重要なポイントに

 様々な問題や負担の中でも、注目したいのは「他社との情報連携」です。社内では情報をデジタル管理していても、取引先が要求する規格書フォーマットが複数あり、システム間での連携がとれずに作業時間が負担になっている場合はよくあると思います。今後は、システム間で連携が容易になる「プラットフォーム」的役割を果たすシステムが重要になるでしょう。

 その他、情報連携が進まない理由の一つに、食品の原材料情報は「企業秘密」であり、特に同業他社には知られたくない情報だということが考えられます。そのため、積極的な開示や他社との情報共有につながりにくいのでしょう。原材料情報は、企業努力を重ねた結果である「秘伝のレシピ」ですから、それをすべてネット上で公開することに抵抗感を持つのは当然だと思います。しかし、情報を欲しいと思っているのは同業他社だけではありません。食物アレルギーを持つ方を始め、消費者の多くがより詳細な情報を求めるようになってきています。

 食物アレルギーの方は、詳細なレシピ情報を求めているわけではありません。製法を含まない、「原材料」の情報です。また、必要としているのは、「安心なのか?」というような曖昧なものではなく、「アレルゲン」という、はっきりした情報です。全原材料の個別表示と重量が分かればベストですが、それらの公開が無理であれば、特定原材料及びそれに準ずるもの(25品目)の由来原材料表示*1があるとアレルギーを持つ人の食の選択肢を広げる一助になり、全ての情報を公開しなくても、効率的に有益な情報発信ができます。

*1 由来原材料… アレルゲンがどんな食材として入っているかを示すこと。例:醤油(小麦由来)

食品表示、情報開示の今後

 現状では、食品表示は法令で定められているから作成するもので、それ以上のことをする必要性を感じていない企業がほとんどだと思います。しかし、今後は食品表示を消費者とのコミュニケーションの場だと考え、積極的に開示していく姿勢が求められるのでは、と思っています。
 インターネットが普及する前、消費者にアピールする方法は、テレビのコマーシャルや雑誌・新聞の広告がメインでした。これらの広告は主に「イメージ」に訴えるもので、商品の細かな情報を発信する場ではありません。それに対し、近ごろ増えてきているインターネット上の商品比較サイトでは、主に「商品情報」を扱っています。商品を購入する際、「イメージ」よりも「商品情報(スペック)」を重視する人が増えてきているのです。食品情報にも同じ流れが来るような気がしてなりません。

 消費者が求める食品情報の種類は増加の一途をたどっており、今後もその傾向は続くでしょう。特に加工食品の場合は、食物アレルギー情報のほか、添加物や栄養成分、放射性物質の検査情報など、多岐に渡っています。1人の人が必要としている情報は1種類ではなく、複数の情報であり、情報の組み合わせが複雑になっていきます。企業側も、お客様の問い合わせにいつでも答える準備が必要ですし、問い合わせがなくても積極的に発信することが企業イメージの向上につながるでしょう。

 消費者自身にも、食の情報を正しく理解するリテラシーを持つことが求められています。一括表示を始めとした食品の情報は規則が複雑で、一般には理解されにくいものです。企業がせっかく情報発信していても、消費者に誤解が生じては意味がありません。法律通りの表示を一歩抜け出し、消費者が理解を深めることができる表現を用いて「消費者に届く表示」を目指す時期に来ているのかもしれません。食品表示は消費者とのコミュニケーションの第一歩なのです。

リスク管理、リスクコミュニケーションとしても

 また、原材料情報を管理しておくことは、リスク管理でもあります。
例えば、食物アレルギー情報を管理し、正しく表示するためにはフードチェーンの川上/川下との情報連携が必要です。情報が流れる仕組みを整えるまでには、さまざまな苦労がありますが、すべての流れを把握することで、情報伝達の無駄を省いたり、作業効率アップにつながるなど副次的効果も期待できます。3月の震災時には日頃の情報連携が功を奏して、復旧を早められたという例も聞いています。情報開示の取り組みは、お客様のためだけでなく、自社のためにも必要不可欠なものです。

 特に、食物アレルギーに関するリスクコミュニケーションは日常的に必要なものであり、開示方法が法令で細かく決まっているため、曖昧な基準に悩まされることはありません。まずはこの分野で情報連携と情報公開に取り組む姿勢や方法を再検討することで、放射性物質などの新たなリスクにも対応できる基礎体力作りのきっかけにしてみてください。

執筆者プロフィール

田中あやか(フードコミュニケーション デザイナー) 

慶應義塾大学SFC研究所所員、ほっとFOODnet代表、食品表示管理士、食育指導士。2008年より、東京海洋大学にて、ITを用いた食の情報公開と活用について共同研究を行う。
特に食物アレルギー情報に焦点をあてた調査研究で、複雑かつ膨大な食の情報を携帯電話などの身近なIT技術を使って消費者に届ける方法を探っている。

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