食物アレルギー対策
田中あやか(フードコミュニケーション デザイナー) 2011年03月31日
食品メーカーの方にとっては、食品衛生法によるアレルギー表示はなじみ深いものかと思います。今回は、食物アレルギー表示のルールを整理し、さらに消費者に望まれる表示について考えてみたいと思います。
食物アレルギーの方が増加していることを受け、平成14年4月に「加工食品のアレルギー物質を表示する制度」が開始しました。平成16年には見直しがあり、「特定原材料に準じるもの」にバナナが加わりました。また、平成20年にはえび、かにが「特定原材料」に変更になりました。
アレルギー表示は食物アレルギー患者の実態調査等の結果を受けて常に見直されており、最新の動向を定期的にチェックする必要があります。また、店頭販売の惣菜・パン・弁当や外食のメニューなどは表示の義務がありませんが、いつお客様から質問を受けてもよいように情報提供の準備が必要です。最新情報は下の消費者庁のサイトからダウンロードすることができます。
■アレルギー表示とは
http://www.caa.go.jp/foods/index8.html
■アレルギー物質を含む食品に関するQ&A
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin12.pdf
■アレルギー表示に関するパンフレット(アレルギー物質を含む加工食品の表示ハンドブック)
http://www.caa.go.jp/foods/index8.html
■加工食品のアレルギー表示
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin18.pdf
こちらは消費者向けのパンフレットですが、食物アレルギーの基礎知識と表示制度について分かりやすくまとまっています。患者の立場で書かれたパンフレットに目を通すと、食物アレルギーを持つお客様はどのような情報を必要としているのか理解しやすいかと思います。
食物アレルギーの表示は「特定原材料の表示義務」の他にいくつものルールがあります。しかし、そのルールを守って作られたアレルギー表示であっても、すべての食物アレルギーの方が満足できる内容かと言うと、必ずしもそうではないようです。なぜなら、それらのルールは消費者の立場ではなく、表示する側の事情を考慮して作られたものがほとんどだからです。以下にその具体例を示していきます。
1.「特定原材料に準ずるもの」について
現在、特定原材料(7品目)には表示の義務がありますが、「特定原材料に準ずるもの」18品目については、「表示が勧められている」だけで表示の義務はありません。
例えば、パッケージに「牛肉」の記載がなかったとしても、「もともと牛肉が入っていない商品」なのか、「牛肉を使っているが、表示をしていないだけ」なのか区別がつきません。これでは牛肉アレルギーの人が商品を購入する際に判断がつかず困ってしまいますね。
アレルギー表示をする際は、25品目すべてを記載するほうが理想的であることは言うまでもありません。しかし、スペースの問題でやむを得ず一部しか表示できない場合は、「本品は食品衛生法に基づく特定原材料に準ずるもの(食品に含まれている場合はその旨表示することが推奨されている原材料)のうち、鶏肉、牛肉について表示対象にしています」のように、表示している範囲を明記するとより親切です。
2.「代替表記・特定加工食品」について
アレルギー表示をする際、アレルギー物質が含まれていることが明白なときには、アレルギー物質名表記をしなくてもよいことになっています。
これではお子さんが一人で買い物をする際、「マヨネーズは卵から作られている」と知っていないと誤食をしてしまう危険性があります。また、大人でもうっかり見落としてしまいそうです。代替表記が可能な食品であっても、「卵」や「大豆」などの通常の名称が併記されているとさらに分かりやすい表示になると思います。
3.「個別表示と一括表示」について
アレルギー表示には、個々の原材料の直後にアレルギー物質を()で記載する「個別表示」と、全ての原材料を記載したあとに、まとめてアレルギー物質を表示する方法「一括表示」があります。
食物アレルギーを持つ人にとっては、どの原材料にアレルギー物質が含まれるかが明確な(A)の個別表示の方が分かりやすい表示です。
4.省略規程
さらに、同じ特定原材料等を重複して使用する場合には、重複して表示する必要がない、というルールもあります。下記(A)(B)の表示はまったく同じ内容を表しています。
(B)は「マーガリン」と「でんぷん」に含まれる特定原材料が省略されおり、マーガリンに大豆油や脱脂粉乳が入っていることが分かりにくくなっています。こちらも省略規程を使わずに記載している(A)の方がより分かりやすい表示となります。
1~4の例は、どれも食物アレルギーの方にはやっかいなものです。微量のアレルゲンで発症するような重度の方であれば、一括表示や省略規程を利用した表示でも「食べることができない」と判断することができます。しかし、アレルゲンの完全除去までは必要のない方にとっては、個別表示や省略のない記載が重要になってきます。
小麦アレルギーだけれど「醤油に入っている小麦であれば、大丈夫」という方や、卵アレルギーであっても「加熱してあれば食べられる」場合もあるのです。例えば、少量であれば乳が含まれた食品を食べることができる人の場合、「このお菓子はトッピング部分の生クリーム以外に乳は使われていない」と分かれば、上にのっている生クリーム部分を外して食べることができます。
このように「どの原材料に何のアレルギー物質が含まれているのか」が明確であればあるほど、消費者にとって分かりやすい表示となります。また、食物アレルギーを持つ人の選択肢が広がるため、食生活を豊かにする一助になり、「食べるための表示」にすることができるのです。
最後に、2010年3月に食物アレルギーの子を持つ親の会の会員を対象に行ったアンケート結果をご紹介します。
Q.「外食を利用する際、アレルギー情報として必要だと思うもの」はなんですか?
※研究論文:小川美香子、田中あやか、野田啓一、河合亜矢子、2010、「顧客と店員のコミュニケーション支援に関する研究:ITを活用した外食店における食物アレルギー情報提供」より
一番数値が高かったのは「全原材料表示」で、77%の人が必要だと答えています。2009年に加工食品について行った調査でも同様の結果が出ています。
アレルギー表示は、食物アレルギーの方の利便性を高めるために作られたものです。ところが、今のままでは消費者は法律を理解した上で元の情報(全原材料表示)を想像しながら読み解かねばならず、さらに表示を作る側も関連する法律を正しく理解して元の情報(全原材料表示)を加工する必要があります。このような難しい表示よりも、生のままの情報(=全原材料表示)を知りたいと思う人がたくさんいるのです。もちろんアレルギー物質に指定されている25品目以外にアレルギーがある方のためにも、全原材料表示は必要になります。
食品パッケージやメニューブックに記載する際は場所の制約があるので、全原材料表示は難しいかもしれません。その分、ホームページなどを活用して全原材料表示および個別表示を行うことが、確実で誤解のないアレルギー情報の伝え方だと言えます。
慶應義塾大学SFC研究所所員、ほっとFOODnet代表、食品表示管理士、食育指導士。2008年より、東京海洋大学にて、ITを用いた食の情報公開と活用について共同研究を行う。
特に食物アレルギー情報に焦点をあてた調査研究で、複雑かつ膨大な食の情報を携帯電話などの身近なIT技術を使って消費者に届ける方法を探っている。
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