食の研究所

ミスの起きない“仕組みづくり”が不可欠 アレルギー事故を繰り返してはならない

白田 茜(フリーランス記者)  2013年03月27日

アレルギー事故が後を絶たない。2012年12月、東京都調布市の小学校で“乳アレルギー”を持つ女児が死亡した。原因は給食のチーズが入ったチヂミだった。

 いまや全人口の1~2%、乳児では約10%がアレルギーを持つと言われる。アレルギー対応は学校や企業 を問わず社会の中で欠かせなくなっているのだ。そこで今回は事故を振り返り、アレルギー事故を防ぐためにどう対応すればいいのか、現状の問題点や背景、課 題について考えてみたい。

現場依存になっているアレルギー対策

 学校側は女児の乳アレルギーを把握していたので、教室で給食を受け取らせず、チーズ抜きのチヂミを調理員が手渡すなどの工夫をしていた。

 しかし、女児がおかわりを求めた際、担任は保護者が作成した献立表を見て、アレルギー物質が含まれていることを示す印がついていなかったため、女児に チーズ入りのチヂミを提供してしまった。本来、学校では「除去食一覧表」でアレルギー物質が入っていないことを確認することになっていたが、今回は確認し ていなかった。

 学校側は「担任の確認ミス」として謝罪しているが、アレルギーの対応が現場に依存されていることも見逃せない。個人に責任を負わせるのではなく、ミスが起こらないような仕組みづくりを考えていくことが必要不可欠だろう。

アレルギー反応の正体は過敏な免疫反応

 食物アレルギーでは、細菌やウイルスの侵入から体を守る「免疫」のシステムが影響していると考えられている。免疫のシステムでは、ウイルスなどの病原体が体内に入ってくると、身を守るために抗体を作り、再び体内に入ってきた病原体を攻撃する。

 アレルギーを引き起こす原材料となる「卵」などのアレルゲンに対して抗体が作られ、アレルゲンが体内に入ってくるとアレルギー反応を起こす。つまり、本来、無害なはずの食べ物に免疫が過敏に反応して、体を傷つけているのだ。

 食物アレルギーは様々な症状をもたらす。かゆみや湿疹などの皮膚の症状、鼻水やくしゃみなど粘膜の症状、咳き込みなどの呼吸器の症状、嘔吐や下痢など消 化器の症状、頭痛など神経症状、血圧低下など循環器の症状だ。2つ以上の臓器に症状が出ることを「アナフィラキシー」と言う。これに加えて、血圧低下や意 識障害を伴う重い症状は「アナフィラキシーショック」と言われ、命にかかわる。

 また、アレルギーには、すぐに症状が出る「即時性」と、すぐには症状に現れない「非即時性」がある。即時性では食品を食べた直後から2時間以内に症状が 現れる。非即時性にはさらに、6~8時間内に症状が現れる「遅発性」と、翌日から数日後あたりに反応が起こる「遅延性」がある。非即時性では、時間が経っ てから反応が起こるため何が原因か分かりにくいこともある。これらを併せ持つ症状の人もいる。

 アレルギーが乳児に多いのは、成長による耐性がまだ獲得されていないためと考えられている。ただし、魚介類、エビなどの甲殻類、ソバ、ナッツ類、果実などでは耐性を獲得しにくいと言われる。

後を絶たない給食のアレルギー事故

 実際、アレルギー事故はどれくらい発生しているのだろうか。アレルギー事故の統計がないため、実際の発生件数は不明だ。ただし、給食に限って言えば、全国規模での調査結果がある。

 2006年に国立病院機構相模原病院小児科の今井孝成氏が日本小児科学会雑誌で発表した「学校給食において発症した食物アレルギーの全国調査」による と、全国の給食調理場に聞き取り調査を行った結果、2002年度から2003年度の2年間で合わせて637件の給食のアレルギー事故が発生していたことが 分かったという。この調査は全国学校栄養士協議会の協力を得て全国の学校栄養士にアンケート調査を行ったものだ。

 2007年に日本学校保健会アレルギー疾患に関する調査研究委員会が発表した「アレルギー疾患に関する調査研究報告書」によると、食物アレルギーをもつ 児童数は32万9423名にのぼる。学校のアレルギー対策は急務だが、もともと食物アレルギーを診断されていなかった児童が突然発症したり、アレルギー原 因物質が特定されないままでいたりするケースもあるという。予測のつかないことも多く、学校の対策の難しさを物語っている。

 今回の事故を受けて、調布市はアレルギーのある児童のおかわりを「原則禁止」にするという。アレルギーを持つ子の保護者からは懸念の声もある。都内の小 学校に入学予定の児童の母からは、「重篤なアレルギーを持つ児童は断られるのではないか」「事故を避けるためにアレルギーを持つ児童だけ給食を出されなく なり、一律に弁当を持たせることになるのではないか」という不安の声も上がっている。

 日本学校保健会は、2008年6月に「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」を作成している。ガイドラインには、学校と保護者、主治医がコミュニケーションを取る「アレルギー疾患対応の学校生活管理指導表」がある(下図)。

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アレルギー疾患対応の学校生活管理指導表(一部)
(出典:「(財)日本学校保健会ポータルサイト」より)

 これは、生徒が何のアレルギーを持ち、どのような対応が必要か、緊急時の対応などを主治医が記入し、学校がきめ細かな配慮を行うためのツールだ。アレル ギーを持つ子供の保護者は主治医にこれらの事項を記載してもらい、学校と具体的な注意点を話し合う。そして、学校側は指導表を確認しながら、アレルギーを 持つ生徒の日常生活について適切な対応を行うというものだ。もともと、このような指導表は、心臓病などの病気を持ち学校による特別な配慮が必要な児童に使 用されていた。

 これまで、子供のアレルギーについては保護者が学校に相談する決まった手段はなく、学校側に配慮を求めるに過ぎず、その対応もまちまちというのが実情だった。

 アレルギーを持つ児童にもこのように一貫した対応を取ろうとしていることは一歩前進と言えるだろう。しかし、今回の事件はこのようなガイドラインが作成された後に起こったものだった。

給食アレルギー事故防止には細かい対応が必要

 アレルギー事故を防ぐためにできることは何だろうか。

 大規模な給食センターで一度に大量に作られることも多い給食では、調理場所や器具を分けてアレルゲンが混入しないようにするコンタミネーション対応をどこまで行っているのか不明だ。しかし、除去食専用の調理場を造るのが最善策となる。

 すでに対応済みの学校もあるかもしれないが、防止策として、調理現場でアレルギーのある児童専用の食器を最初から用意し、他の児童に出す食事と混じらないようにする方法もある。「目から見える」ようにして注意を促すことは有効だろう。

 おかわりで起きてしまった事故に学び、担任だけでなく管理栄養士や副担任など複数で何重にもチェックをする体制にしておけば、より事故を防ぐ可能性が高い。ただし、短い給食の時間に、多くの児童を見ながらどこまでこまやかな対応を取れるかという現実的な問題もある。

 また、アレルギー症状が出た時の対処法を把握しておくことも大事だ。食品が口に残っている場合、吐かせたり、うがいさせたりする。すでに飲みこんでしま い症状が出ている場合は、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬で症状を緩和させる。アナフィラキシーの徴候が出ている場合は、「エピペン」などの薬を自分で注 射するという方法がある。徴候を感じたときすぐに注射すると、ショック症状を軽減させるという。

 アレルギーを持つ児童は、あらかじめ薬を常備しておき、学校側が薬の保管先を把握するなど救急時の対応を周知しておくことも大事だろう。また、学校では、職員全員が対処法を共有しておくことが望ましい。


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執筆者プロフィール

白田 茜(フリーランス記者) 

白田 茜(しろた あかね) 1978年佐賀県生まれ。 佐賀県庁で食品のブランド化に関わる。その後、大学院で農業政策や食品安全に関するリスクコミュニケーションを学ぶ。
食品コンサルタント会社を経て、現在は社会的関心が高い科学ニュースについて専門家のコメントを収集しジャーナリストに提供する活動をしている。関心のあるテーマは、農業、食品流通、食品安全、リスクコミュニケーション。

<記事提供:食の研究所
JBpress、現代ビジネス、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインの4つのビジネスサイトが共同運営する「食」の専門ページ。栄養士が勧める身体にいい食べ方、誰でも知っている定番料理の意外な起源、身近な食品の豆知識、食の安全に関する最新情報など硬軟幅広い情報を提供。
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