食の研究所

賞味期限切れ、いつまで食べても大丈夫? 学び直しの「消費期限と賞味期限」(後篇)

漆原 次郎(フリーランス記者)  2013年02月27日

 食品に表示されている「消費期限と賞味期限」を学び直すため、東京農業大学客員教授の徳江千代子さんに話を聞いている。徳江さんは、東京農業大学の前食品加工技術センター長で、『賞味期限がわかる本』などの著書を出している。

 前篇では「消費期限」は「おおむね5日以内の、超すと危ないことを意味する期限」であり、「賞味期限」 は「製造メーカーが品質を確実に保証している期限」であるといったことを聞いた。そして、これらの期限を設定しているのは主に食品製造者だという。本当の 期限よりも低く見積もる「安全係数」をかけるが、あまりにこの係数を厳しく設定するあまり、まだ食べられる食品も廃棄されてしまう現状があるようだ。

 後篇では、賞味期限後や開封後の食品の品質をいかに長く保つか、その知恵を徳江さんから聞くことにしたい。食品が劣化する要因と、その要因を減らすための知恵、さらに“食べられる・食べられない”を判断する感覚の大切さを語ってもらった。

「常温で保存」と書いてあったらどうする?

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徳江千代子さん
東京農業大学客員教授。博士(農芸化学)。前・東京農業大学応用生物科学部栄養科学科・食品機能開発学研究室教授。同大学の食品加工技術センター長も長年にわたり務めた。「食品の保蔵・加工における多様な食品機能」が現在の主な研究テーマ。著書に『賞味期限がわかる本』(宝島社、文庫も)『野菜がいちばん』(いしずえ)など多数。監修本に『野菜のストック便利帳』(大泉書店)など

──後篇では、食品の消費期限や賞味期限との実際の付き合い方をお聞きします。消費期限にも賞味期限にも、保存方法に様々な表示がありますが、とりわけ消費者が知っておいた方がよいことはありますか?

徳江客員教授(以下、敬称略) 開封前の保存方法に「常温で保存」という表示があります。これは、摂氏15度から20度で温度変化の少ない場所に保存することを意味しています。例えば、日の当たらない廊下に置かれたトレイなどが当てはまりそうです。

 逆に、熱の発する電化製品や、火の出るガスレンジの近くなどは、温度変化が激しすぎるため、未開封でも開封後でも保存には適していません。

──他に、食品を保存する条件として「冷暗所」と書かれているものもあります。

徳江 冷暗所は、常温よりも温度の低い、つまり15度以下で、光の当たらない場所を指します。昔の日本の一軒家の台所 は夏でもひんやりしていて、冷暗所にふさわしい場所でした。しかし、冷暖房完備の新しい住宅では、この条件に当てはまりません。冷蔵庫の野菜室が、冷暗所 の条件に近いと言えます。

──「開封後はなるべくお早めにお食べ下さい」という表示もよく見かけます。どう考えればよいでしょうか?

徳江 「早めに」が、1日なのか、3日なのか、1週間なのかが分からないという点は、多くの方にとって問題になっていると思います。

 難しいのは、食品を買う人はたくさんいて、人により保存の知識や方法が異なるということです。パックの牛乳をコップに注いで飲む人もいれば、あけくちに口をつけてごくごく飲む人もいます。そこまで条件を分けて製造者が表示することはできないのです。

水分、酸素、酵素・・・劣化の要因は様々

──そもそも、なぜ日が経つと食品の品質は劣化していくのでしょうか?

徳江 食品には、劣化する要因がいろいろあります。具体的には、水分、酸素、光、温度、酵素、細菌やカビなどの微生物、それに昆虫やネズミなどの生物といったものです。

 「水分」について言えば、各食品の「水分活性」という指標が、劣化を考えるときの大切な要素となります。水分活性とは、微生物が自由に使える水がどのくらいその食品に入っているかを0.00から1.00までの数値にしたものです。

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食品と微生物が生育可能な水分活性の各値。微生物の方は下限値。ほとんどの細菌が0.90以下では生育できないが、高い塩分(低い水分活性)で育成できる好塩球菌も存在する。食中毒の原因菌にもなることから注意は必要。 (徳江客員教授の提供資料を参考に筆者作成)

 0.95を超える食品には、サルモネラ菌やボツリヌス菌などの食中毒をもたらす細菌が繁殖しやすくなります。生鮮野菜、肉、魚などの水分活性は0.98~0.99なので、これらの細菌の繁殖しやすい値より高いのです。

 水分活性が0.90あたりですと、食品に微生物がつきづらくなります。ベーコンは0.89、ジャムは0.82。さらに、キャンディーは0.57、ビス ケットは0.33となり、水分活性は低くなります。日本の干物などの伝統食も、水分活性が0.85から0.65の低いものが多く、冷蔵庫がない時代に食べ 続けられたことを裏づけています。

 「酸素」も食品を劣化させる大きな要因となります。カビなどの微生物は、空気中にたくさん存在しており、これが食品に付着していくからです。

 また、「酵素」も食品を劣化させる要因です。生き生きとした野菜からは酵素が出続けますし、また、魚介類の内臓などにも酵素はたくさんあります。

執筆者プロフィール

漆原 次郎(フリーランス記者) 

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。

<記事提供:食の研究所
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