食の研究所

食べものの4分の1が食べずに捨てられる国 学び直しの「消費期限と賞味期限」(前篇)

漆原 次郎(フリーランス記者)  2013年01月30日

 「食の安全」を専門家に問うこのシリーズでは、第1弾として「食品添加物」を、第2弾として「遺伝子組み換え食品」を取り上げてきた。人びとの持つ「体によからぬもの」や「得体の知れないもの」という印象と、専門家が説く安全性とのギャップの大きさも見えてきた。

 今回取り上げるテーマは「消費期限と賞味期限」だ。9割以上の人が、スーパーマーケットやコンビニエン スストアで食品を買うとき、これらの期限が書かれた食品品質表示を見ているという。新鮮なものを食べたい、あるいは“悪くなりかけ”のものを食べたくない といった感覚が強いのだろう。

 「とにかく期限が来たら食べるのをやめればいい」と一律に考えてしまいがちな、消費期限と賞味期限。しかし、似て非なる言葉が2つあるからには、それぞれの意味する中味は違うはずだ。この2つの「期限」と、どう向き合えばよいのだろう。

 そこで、消費期限や賞味期限にまつわる疑問を、東京農業大学客員教授の徳江千代子さんに投げかけた。徳江さんは東京農業大学の前食品加工技術センター長。著書『賞味期限がわかる本』では、多岐にわたる食材を長持ちさせる保存方法などを著して評判を呼んでいる。

 前篇では、消費期限と賞味期限の意味するところを整理してもらった上で、だれがどのようにこれらの期限を決めているのか、その実情を徳江さんに聞くことにする。期限の決定に科学的裏付けはあるのだろうか。 

 後篇では、われわれの生活により引き付けて、これらの期限との賢い付き合い方を、徳江さんに伝授してもらうことにしよう。

似て非なる消費期限と賞味期限

──「消費期限」と「賞味期限」は、それぞれ何を意味しているのですか?

徳江千代子客員教授(以下、敬称略) 「消費期限」の方は、分かりやすく言うと「おおむね5日以内の、超すと危ないことを意味する期限」という意味です。例えば、弁当や総菜、パン、肉などの腐敗しやすい食品に対して、消費期限が示されています。何月何日の何時までという時刻まで決められています。

 「賞味期限」の方は、「製造メーカーが品質を確実に保証している期限」のことです。卵、ヨーグルト、ハム、さらに品質が長く保持される缶詰、醤油、ジャ ムなどに賞味期限が付きます。賞味期限を超えたから食べられなくなるかというとそうではありません。賞味期限を超えた食品がいつまで食べられるかは、消費 者本人の五感や保存方法次第となります。

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消費期限と賞味期限の違い (徳江客員教授の提供資料を参考に作成)

 消費期限も賞味期限も、大前提にあるのは「開封前」のことを言っているということです。賞味期限が「3年」だとしても、今日その食品の封を開けてしまえば「3年」の意味は失われます。また、食品表示に記された保存方法で保存することも前提にあります。

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徳江千代子さん
東京農業大学客員教授。博士(農芸化学)。前・東京農業大学応用生物科学部栄養科学科・食品機能開発学研究室教授。同大学の食品加工技術センター長も長年にわたり務めた。「食品の保蔵・加工における多様な食品機能」が現在の主な研究テーマ。著書に『賞味期限がわかる本』(宝島社、文庫も)『野菜がいちばん』(いしずえ)など多数。監修本に『野菜のストック便利帳』(大泉書店)など

──中には、消費期限や賞味期限が見当たらない食品もあります。 

徳江 ええ。例えば、生鮮食品の野菜や魚には消費期限が示されていません。生鮮食品は2~3日で食べ切ってしまうことを原則にしているからです。また、加工食品でもバラ売りされているものには示さなくてもよいことになっています。

 砂糖、塩、ガム、氷、それにアイスクリームなどにも賞味期限がありません。水分がほとんどなかったり、冷凍保存されたりして、菌の繁殖が起きづらいからです。

──そうした表示の方法をどの省庁が管轄しているのですか?

徳江  現在は消費者庁が管轄しています。以前は、食品の品質表示に関連する法律として、食品衛生法と健康増進法を厚 生労働省が、JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)を農林水産省がそれぞれ管理していましたが、2009年に消費者庁が発足し て、統一的に管轄することになったのです。

「食品を知っているのは製造者」という思想

──食品それぞれの消費期限や賞味期限を、だれが決めているのですか。

徳江 主に食品の製造者が決めています。その食品の材料や製造法について、いちばんよく知っているのは製造者であるという考え方から、製造者自身が期限を決めているのです。

 もちろん、食品品質表示では、原材料名が多い方から順に書かれているので、何が入っているかは分かるようになっています。しかし、少しだけ入れているものが実際どのくらい入っているかといったことは、製造者でなくてはなかなか分かりません。

 また、食品がどれだけ劣化せず保持されるかも、食品を作った製造者自身がよく知っています。製造者自身が消費期限や賞味期限を決めていることには、こうした背景があります。

 なお、輸入食品の賞味期限については輸入業者が決めています。他に、加工者、販売者が食品品質表示の義務を負うこともあります。

執筆者プロフィール

漆原 次郎(フリーランス記者) 

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。

<記事提供:食の研究所
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