食の安全コラム

手荒れに潜む菌汚染の危険とその対策

株式会社SGSジャパン マイクロバイオチームリーダー   2012年02月23日

 現在は2月の真っただ中、日本では一年で一番寒い季節です。こんなに寒い中でも、食品メーカーや外食業界の方などは常に水仕事をされ、手荒れに悩まされている方も多いのではないでしょうか。

 たかが手荒れと思われるかもしれませんが、手荒れは「菌の温床」になることから、非常に深刻かつナーバスな問題にも発展しかねません。現に、人一倍仕事ができる人でも、手荒れが原因で扱っている食品への菌汚染を懸念されて作業セクションの配置替えを余儀なくされたケース、さらにそれが原因で当事者が「自分は汚いのだ」と精神的に参ってしまったケースを筆者はいくつか知っています。これは雇い主側、雇われる側双方にとって、不幸なことです。

 手指の衛生管理を行う上で、手荒れは改善が一番に望まれるべき事柄であり、正面から向き合う必要があります。そこで今回は、消毒の目的や手荒れの原理、その対策をお伝えしたいと思います。

アルコール消毒は「黄色ブドウ球菌」対策

 まず、そもそもなぜ手指に手荒れの原因となるアルコールを使用するのでしょうか。もちろんインフルエンザを代表とするウィルス対策的なものや、大腸菌などの汚染指標となる菌に対しての効果を否定するつもりはありません。しかし、ヒトがもともと持っている菌(保有菌種)のうち、皮膚表面上に常在する菌を考えた場合、手指の消毒は「黄色ブドウ球菌対策」といってもいいと思っています。

 この黄色ブドウ球菌はご存知のとおり食中毒の原因となる細菌です。作られる毒素は100℃で30分の加熱をしても不活化されないといわれており、毎年食中毒の原因菌の上位に入っています。このように確かに“怖い”菌なのですが、実はこの菌を“常在菌”として保有しているヒトが、なんと割合として約30%弱、つまり10人に3人いるといわれています。

 食品メーカーや外食業界で働く人のなかにも、必ず保菌者はいるはずです。そこで手洗いで残存してしまった黄色ブドウ球菌を水際で食い止めるため、その手っ取り早い手段として、細胞(菌)のたんぱく変性を促進させること(たんぱく変性作用)、すなわちアルコールの使用が用いられているといえます

消毒が引き起こす負のスパイラルと間違った対策

 しかし、アルコールは何も菌に対してのみピンポイントで攻撃できるスグレモノではありません。ヒトの皮膚における構成細胞ももちろんたんぱく質であり、アルコールを使用することにより少なからず影響を受けることとなります。このダメージが蓄積され、度を超えた影響が現象として現れるものが“手荒れ”なのです。

 そして、冒頭で申し上げたとおり、手荒れは「菌の温床」となります。結果、下記のような負のスパイラルに陥っている人が多いのではないでしょうか。

① 菌を抑えるために良く洗浄し、アルコールを使用する。
② 手荒れが起こり、菌の温床になる。
③ それを防ぐためにさらに薬剤を使用する。
④ 皮膚が悲鳴を上げて、重度の手荒れ状態となる。
⑤ ①へ

img_sgs_201202

 この負のスパイラルから抜け出すため、よく目にする対策の中に作業時におけるゴムやエンボス手袋の着用があります。しかし、この方法は一歩間違えると非常に危険です。なぜなら菌の発育条件とは、「温度」「栄養」「水分」で成り立っており、ヒトが着用した手袋の中はまさにこの3つの条件が兼ね備わった環境だからです。一度、着用して蒸れた手袋の中をふき取り検査をしてみれば、凄いことになっていることがわかると思います。したがって、表面的には綺麗に作業できたとしても、大きな危険性を孕んでいる事に気を付けねばならないのです。

まずは身近なところから。効果がある「2度洗い」

 そこで、まず身近なところで効果的な対策として提案したいのが、石鹸で2度洗いをしてからアルコール消毒をする、ということです。

 機会がある人はなかなかいないと思いますが、下の写真の様に手のひらにいる菌を培養することで菌のコロニー(集落)を産生させ、その時点での菌数を把握するという確認検査方法があります。よく手洗い「前」と「後」の写真を載せて、「手洗い前はこんなにいた菌が、手洗い後にはきれいさっぱりいなくなりました」というものをご覧になった方もいるのではないでしょうか。しかし、実のところこの検査は人により差があるものの、おおかたの人は手洗い「後」の方が菌数が多いのです。

img_sgs_201202_2

 「なんで?じゃあ、手洗いの意味ないじゃん!」ということになってしまいますが、本当はもちろん意味があります。手の平は乾燥状態であれば、表皮に“皮脂の膜”ができています。菌はこの皮脂の内側に存在している場合が多く、手洗いをすることで皮脂が洗い流され、その下に存在していた皮膚常在菌があらわとなった状態になるのです。そこでこの検査を実施してしまうと、人によってはあたかも洗浄後のほうが高値となってしまったように見えるのです。

 このことからもわかるように、手洗いを行う場合は本当に菌数が少なくなるように2度洗い流し、その後にアルコール消毒をすれば、少量の薬剤で最大の効果が発揮できるはずです。

強力な助っ人「皮膚保護クリーム」

また、今回商品名を直接的に出すことはできませんが、筆者がその効果を唯一認めた「手荒れ防止のハンドクリーム」がひとつだけあります。下記にその商品説明をまとめました。ぜひインターネットで「業務用 皮膚保護クリーム」と検索し、特徴があっている商品を探してみてください。

業務用 皮膚保護クリーム(手荒れ防止)


<効果>
手荒れを直すのではなく、手荒れしないように皮膚を保護します。皮膚表面に極めて薄い保護膜を作り、洗剤などから皮膚を保護して皮膚の潤いを保つ皮脂の脱落を防ぎます。

<活躍現場>
主に業務用として、病院や介護の現場、美容院、エステ、工場、食品工場など、手荒れが深刻な現場

<使用方法>
・作業前に手を洗い乾燥させます。
・それから手、指先、爪の間、あま皮にもよく塗り、約5分間乾燥させるだけです。両手に塗る場合は、約1g塗ります。
・作業後は洗い落とす必要はありません。

<効果の持続時間>
効果は約4時間。洗剤や消毒液で手洗いしても、皮膚を保護する保護膜は残っていますので、皮膚保護機能がなくなることはありません。ただし、薬品や溶剤、ブラシ洗いなど過酷な条件では効果時間が短くなることもあります

 この製品は舐めることができるほど安全であり、一説によれば効果持続期間内では塩酸に直接触っても大丈夫なのだとか。この様な製品をうまく活用することにより、手荒れによって引き起こされている不幸な事例がひとつでも減ってくれればと切に願っています。

 これは決して人事ではありません。元来ヒトは100%何かしらの菌を持っているのです。これはイコール“不潔”というものではなく、よからぬ外的因子からの生体防衛に働くという役割も兼ね備えています。しかし、中には黄色ブドウ球菌のように怖い菌もあります。食品への菌汚染を防ぐためには日ごろから健康な手指を保ち、食品に関わる仕事に従事する際は特に衛生的な行動を心掛けてください。

執筆者プロフィール

株式会社SGSジャパン マイクロバイオチームリーダー  

<SGSジャパン株式会社>
1878年に設立されたSGS(Société Générale de Surveillance)グループは、約64,000名の従業員とともに、1,250以上の事務所と試験所を世界中に擁する最大規模の検査、審査登録機関です。SGSジャパン株式会社はSGSグループの日本法人です。

食の安全コラム バックナンバー

関連タグ


メルマガ登録はこちら