食の研究所

トクホで痩せるためにやらなければならないこと 謎多き「トクホ」の正体に迫る(後篇)

漆原 次郎(フリーランス記者)  2013年07月24日

「ペプシスペシャル」も関与成分は同じ

──よく店頭では、メッツコーラの隣に「ペプシスペシャル」(サントリー食品インターナショナル)が置かれています。こちらも関与成分はメッツコーラと同じ難消化性デキストリン。しかも、人に対する有効性試験の内容もよく似ています(表も参照)。

img_201307_4

「ペプシスペシャル」の人への有効性など (参考:国立健康・栄養研究所が企業から情報提供があった商品をまとめた「『健康食品』の安全性・有効性情報」をもとに筆者作成)

梅垣 ええ。やり方をある程度、一定にしておくのは必要なことです。

 ただし、効果の似たようなトクホについて認識しておきたいのは、2つのトクホの効果が示された論文のデータを見比べて「こちらの方が効果が高い」と単純に判断することはできないということです。被験者そのものが異なるために、試験の結果も変わり得るのです。

 それと、これらの効果は、被験飲料と対照飲料を比較したものであり、トクホ摂取前と摂取後を比較したも のではない、ということも認識するとよいでしょう。トクホの効果を確かめる試験は、何週にもわたって行われるものです。トクホ摂取前とトクホ摂取後の比較 にしてしまうと、体に表れた効果がトクホを摂ったことによるものなのか、ふだん食べているものによるものなのか分かりにくくなります。そのため、トクホに したい試験食品と、対照食品との間で効果の比較をするのです。

──トクホの効果は、トクホでない同様の飲料と比べてわずかなものなのですね。メッツコーラを飲んでもペプシスペシャルを飲んでも大差ないということでしょうか。

梅垣 あとは味の好みの問題でしょう。「メッツコーラ」の味が好きであればそれを選べばよいし、「ペプシスペシャル」の味が好きであればそれを選べばよいのです。繰り返しますが、あくまでトクホは食品です。どちらが美味しいと思うかが大切だと思います。

「ヘルシアコーヒー」は痩せ薬ではない

──もう1つ、最近の話題として、2013年4月に「ヘルシアコーヒー」が発売されました。製造・販売元の花王は、高濃度のコーヒークロロゲン酸が、ミトコンドリアに働きかけ、脂肪の取り込みを促進するなどの効果を説明しています(表も参照)。

梅垣 これについても、普通のコーヒーを飲むのと、ヘルシアコーヒーを飲むのとで、ヘルシアコーヒーを飲んでみようかと思うならば、そうすればよいという話です。ヘルシアコーヒーには痩せる薬のような効果があると考えるのは間違いです。

img_201307_5

「ヘルシアコーヒー」の人への有効性など (参考:花王HPや掲載論文をもとに筆者作成をもとに筆者作成)

──トクホを巡って、有識者などが問題点を指摘したりもしています。例えば、実際とは異 なる効果がトクホで示されているといった指摘です。難消化性デキストリンを含む飲料の効果は、「食事の際に脂肪の吸収を抑える」のではなく、「食事の際に 脂肪吸収を遅らせる」ではないかといったものもあります。

梅垣 確かに、そのような指摘があることは事実で、問題であると思います。

 一方で、本当は効果に何も根拠のないものが、健康食品だとして高額で売られているような事例がたくさんあることが、より問題ではないでしょうか。

 消費者が、市場で手にする製品としてデータが正しく取られているかどうかを判断できるような情報提供をしていくことが重要だと思います。

トクホならば過剰摂取の問題は起きづらい

──2009年には、「健康エコナクッキングオイル」(花王)に、グリシドール脂肪酸エステルという発がん性物質が含まれていることが指摘され、トクホを取り下げた問題がありました。この問題をどう見ますか。

梅垣 問題となる成分が新たに分かってきたということです。食品では、研究が進んでいったら問題があることが分 かるような事例はあります。例えば、かつてバターが動物性で、マーガリンが植物性のため、マーガリンの方が体によいと言われていました。しかし、マーガリ ンに含まれているトランス脂肪酸が、心臓病にかかるリスクを高めることが研究で分かってきました。

 何が重要かと言えば、摂取量です。マーガリンも少量を摂るのであれば問題ありません。一方で、過剰に摂ると何らかの影響は出てきます。要するに、食品はトータルで考えることが重要なのです。

 その点、現在のトクホは、一般の人が「これは食品だ」と認識できるような形状になっています。例えばトクホの飲料を1日に20本も飲むことは常識的には考えられません。しかし、これが錠剤のようなものになると、1日に20錠も摂取することは考えられます。

 いまのところ、トクホにはサプリメントのような錠剤の製品はないため、過剰摂取の問題は起きづらいという状況にあります。

「食事のバランスを」という小さな文言を大切に

──その食品がトクホであるというだけで、無意識的に手がトクホに伸びるような風潮があるような気がします。

梅垣 要はトクホをどう使っていくか、つまり使い方が重要なのだと思います。例えば、メタボリックの人がトクホを飲み続けさえすれば、メタボを解消できるかというと、基本的にはそれだけでは改善には至りません。

 トクホには、トクホマークや表示が許可された効果に比べて目立ちませんが、「食生活には、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを」 という文言が刻まれています。この文言こそが重要なのです。人びとがトクホを手に取るたびに、このことを認識すれば、日常の行動も変わってくるでしょう。

 行動を変えるきっかけとして、このトクホというものが使われれば、トクホも1つの役割を果たすことができると言えるのではないでしょうか。

執筆者プロフィール

漆原 次郎(フリーランス記者) 

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。

<記事提供:食の研究所
JBpress、現代ビジネス、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインの4つのビジネスサイトが共同運営する「食」の専門ページ。栄養士が勧める身体にいい食べ方、誰でも知っている定番料理の意外な起源、身近な食品の豆知識、食の安全に関する最新情報など硬軟幅広い情報を提供。
食の研究所はこちらhttp://food.ismedia.jp/

食の研究所  バックナンバー



食品メーカーなど8000社導入!製品規格書クラウド管理システム BtoBプラットフォーム 規格書

メルマガ登録はこちら
フーズチャネルタイムズ 無料購読はこちら