食の研究所

トクホで痩せるためにやらなければならないこと 謎多き「トクホ」の正体に迫る(後篇)

漆原 次郎(フリーランス記者)  2013年07月24日

 「特定保健用食品」(トクホ)は、誰もがコンビニエンスストアなどで手に入れることのできる身近な食品だ。しかし、「トクホである」ということだけで、条件反射的に手を差し伸べてしまう向きもある。トクホとは一体、なんなのだろうか。

 トクホの疑問を、前後篇に分けて国立健康・栄養研究所情報センター長の梅垣敬三氏に投げかけている。同 センターは「『健康食品』の安全性・有効性情報」というサイトで、企業から収集したトクホの製品情報273件(2013年4月現在)を含む、健康食品の安 全性や有効性を総合的に伝えている。

 前篇では、梅垣氏から、トクホはあくまで食品であるという基本的な考え方を聞いた。最終製品としての効果が認められたものであるが、食品である以上、薬ほどの強い作用はないということだ。

 後篇ではより具体的に、われわれがよく目にするし手にもする「メッツコーラ」や「ペプシスペシャル」といった“トクホコーラ”や、新発売となった「ヘル シアコーヒー」などの効果のほどを見ていきたい。これらのトクホは、トクホでない食品に比べて、どのような効果の違いがあるのだろうか。そして、われわれ はトクホとどう接していけばよいのだろうか。

トクホは「食品そのもの」に効果がある

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梅垣敬三さん。独立行政法人国立健康・栄養研究所情報センター長。薬学博士。1985年、静岡薬科大学大学院博士課程修了、1986年、国立栄養研究所(現・独立行政法人国立健康・栄養研究所)入所。同研究所サイト内の、特定保健用食品の製品情報を含む「『健康食品』の安全性・有効性情報」の管理運営などを行っている。1994年に日本食品衛生学会奨励賞、2003年に日本栄養改善学会賞を受賞。

──前篇では、トクホの対象は、「食品に含まれる成分」でなく「食品そのもの」であるというお話でした。

梅垣センター長(以下、敬称略)はい。「体によい成分がその食品に含まれているのだから、その食品は体によいだろう」という誤解が専門職の方も含めてあります。

成分を対象とした研究では、夾雑物を除いた“きれいな”試料が使われます。一方、最終的な食品では、成分が同様の状態にあるとは限りません。消費者は、最 終製品として本当に効果や安全性があるか確かめられているかを見た方がよいわけで、トクホは「食品そのもの」に効果があることが認められています。

──トクホには、「血圧が高めの方に適する」「食後の血糖値の上昇を緩やかにする」など の様々な表示があります。より身近なのは「食後の血中中性脂肪が上昇しにくい」あるいは「身体に脂肪がつきにくい」といった表示のあるトクホだと思いま す。この脂肪関連のトクホでは、表示にあるような効果はどのような仕組みで生じるのでしょうか。

梅垣 食物が消化・吸収される段階で糖分の吸収を遅らせたり、脂質の吸収を遅らせたりすることにより、効果が表れるとされています。また、体の中で脂肪を分解させやすくするものもあります。トクホの保健作用に関与している成分(関与成分)によって、効き方は違います。

──では、具体的なトクホとして「キリン メッツ コーラ」(キリンビバレッジ) を取り上げたいと思います。このトクホ飲料では、どのような成分が鍵を握っているのでしょうか。

梅垣 「難消化性デキストリン」という成分が、メッツコーラで「食 事の際に脂肪の吸収を抑える」と表示される上での関与成分となります。企業提供の情報によると、難消化性デキストリンはでんぷん由来の水溶性食物繊維で、 上部消化管における脂質の消化吸収の過程で脂質の吸収を遅らせ、便量増加によって便中への脂質排泄を促進させることにより、食後中性脂肪の上昇を抑制する といいます。

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「キリン メッツ コーラ」の人への有効性など (参考:国立健康・栄養研究所が企業から情報提供があった商品をまとめた「『健康食品』の安全性・有効性情報」をもとに筆者作成)

──実際、被験者がハンバーグやバターロールの食事とともに、メッツコーラと同様の難消化性デキストリンを5グラム配合した被験飲料を飲 んだ試験の結果が、論文で公表されていますね。そこでは、味は同様ながら難消化性デキストリンを含まない対照飲料を飲んだときとの効果の比較が示されてい ます(グラフ参照)。この比較をどう見たらよいでしょうか。

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「キリン メッツ コーラ」の効果を示したグラフ。白丸の「被験飲料」がメッツコーラに当たる。黒丸の「対照飲料」は、難消化性デキストリンを含まない点を除き原材料が同一である飲料。レムナント様リポ淡白コレステロールは、動脈硬化の発症や進展に関与する物質で、「恐玉コレステロール」とも。 (出典:薬理と治療,38,7,637-43(2010)を参考に筆者作成)

梅垣 グラフを見たら、差はわずかだと思うでしょう。実際、試験食品と対照食品の効果の差は、ほんのわずかでしかないと言えます。

 この差よりも、もっと大きな効果を確実に得る方法があります。ほかの食事内容で糖分の摂取量を減らせばよいのです。

──つまり、ハンバーグやバターロールなどの摂取量を減らせばよい、と。

梅垣 そうです。

 それに、トクホの効果を示すデータは、統計的な処理がなされます。それはつまり、トクホを摂ったときに効果が表れる人もいれば、効果が表れない人もいることを意味します。そのトクホを摂る人たち全体で見てみれば「効果があると判定してよいだろう」ということなのです。

  効果の差は、ほんのわずかです。しかし、対照食品を摂ったときに比べて効果があるということは言えるので、表示されている内容は“嘘”ではありません。か たや世の中には、根拠がないのに「こんなよい効果があります」と標榜している食品もあるわけです。わずかであっても効果がデータで確かめられて初めてトク ホの表示ができるという考えを、消費者が認識してくれればよいと思います。

執筆者プロフィール

漆原 次郎(フリーランス記者) 

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。

<記事提供:食の研究所
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