食品表示コラム

「原料原産地表示をめぐる議論(後編)」

井上 慎也(株式会社ラベルバンク)  2012年09月26日

 前回は原料原産地の表示をめぐり、推進側と慎重・否定側で意見が対立し、結論が先送りとなったことをお伝えしましたが、後編では、この議論が紛糾するにいたったもう1つの背景を確認したいと思います。本コラムの第3回目「食品の情報表示をどのように行うべきか (前編)」でもお伝えしました“そもそも食品表示の役割を何とするか”という議論です。

食品表示の2つの役割「安全性」と「商品選択」

 消費者視点での食品表示が持つ役割は、大きく2つに絞られると考えます。①「健康や安全に影響するもの」②「商品選択の目安になるもの」です。そして義務化が求められるのは、なければ困るものであり、どちらかといえば①「健康や安全に影響するもの」で議論が起きるものです。たとえばアレルギー物質の表示義務化や、添加物の使用基準、栄養成分の上限下限などがそうです。

ただ、②「商品選択の目安」が①「健康や安全性」に大きく近づいてきているのでは、ということです。これに「原材料原産地の義務化」を当てはめると、A「ある原産地のものが安全である、もしくは健康によいから“商品選択のため”に必要」であり、逆にB「ある原産地のものが安全ではない、もしくは健康によくないから“商品選択しないため“に必要」と言い換えることができると思います。

 もしAだけであれば、現行のルールでも問題はありません。例えば「北海道産牛乳使用」という風に原料産地を表示する場合、「特色のある原材料」として、製品中で使用される牛乳に占める「北海道産牛乳」の使用割合を記載しなければいけないというルールがあるからです(使用している牛乳全てが「北海道産牛乳」である場合は割合を省略することが可能です)。もしくは前回のコラムでご紹介した消費者庁のたたき台案の「(2)指定加工食品のうち、一定の強調表示がされているものに原料原産地表示を義務付ける方式」で解決できると思われます。
 しかし、Bについては、確かに消費者側の要望である「すべての加工食品に原料原産地の表示を義務化」しなければ解決できないでしょう。

実情に即した制度とするには

 そもそも『食品表示制度一元化検討会(以下、一元化検討会)」の目的に立ち返ると、求められている表示の改善点の一部に、「情報を見やすくする(文字を大きくする)」と、「情報量を増やす」という相反する2要素が求められていました。原料原産地表示の義務化は「情報量を増やす」ものとなり、これを実施することによりパッケージ上の情報はさらに窮屈なものとなることが予想され、最悪の場合、アレルギー情報等の「健康や安全に影響する」情報がその窮屈さの中に埋没する危険性をもっています。現実問題として情報量に対してパッケージのキャパシティはすでに限界を迎えているのです。

しかし、一元化検討会の中間報告の際、一般消費者向けに行われたPDFファイル原料原産地の意見募集では、半数が「すべての原料原産地を表示すべき」と答えたことを踏まえると「消費者基本計画」の理念から、もはや曖昧に済まされる情報ではないと捉えるべき一面もあります。あくまで個人的な意見ではありますが、そうなった場合は、記載の優先度を情報の即時必要性から考え、優先から外れた情報に対しては他の媒体を経由して情報を得ることができる体制にするのが現実的ではないかと考えています。

 現在公表されている「一元化検討会」報告書では、「情報の重要性は消費者、そして食品毎に異なる」とありますが、先にも述べた食品表示の2つの役割で考えた場合、「健康や安全に影響するもの」が優先されるべきなのは言うまでもありません。それは、アレルギー物質や使用基準の定められている添加物、栄養成分などであり、原料原産地についてはそれらに比べると優先度が下がるものと思います。

 そういったものに対しては、QRコードやインターネットといった電子メディアやお客様相談室の紹介、店頭用のPOP、またはこれらの併用など、知りたいとする人には自主的に情報を得ることができる形式がよいのではと考えています。特に第3回「一元化検討会」の資料で提示されていながら、最終的な報告書では結局触れられていなかった「携帯電話等を利用した表示案」について、再度、必要性を議論する必要があるでしょう。

 原料原産地表示の義務化の議論は、まずここをクリアにしたうえで、“情報変更が起こってから容器包装外の表示への反映の時間差の許容範囲”など、他の懸念事項を考えなければ、前に進むことができなくなっているのではないでしょうか。

それぞれの立場

 原料原産地表示に限らず、食品表示への関心は立場で異なります。「販売者」は無添加など特徴が表示できる方法を考える。「管理者」はいかに表示ルールに沿っているかを考える。そして「消費者」は表示してあることと内容が一致しているかを考える。一見、消費者側の考えが一番重要ですが、同時に販売者の視点がなければ市場は活性化せず、暮らしに便利な商品も発売されません。また、管理者の視点がなければ商品選択の定義がおろそかになり、こちらも問題になってきます。今、食品表示全体がこのバランスに悩まされているのではと思っています。

 すべての食品に原料原産地食品を表示できれば、私もそれは商品選択時に便利だとは思います。しかしそこまで完璧を求めると、ただでさえリスクの多い食品産業を営む人が、国内で減っていくのでは・・・と心配しています。そもそも安全な食品などなく、絶対はないという意識を啓蒙し、その上で商品選択(=ショッピングと公正な企業競争)を楽しむことを追求する方がよいのではと考えています。

 ちなみに、8月3日に第12回「一元化検討会」が行われ、これをもって閉会となりました。次回以降で総括を行いたいと思いますが、報告書が消費者庁のHPで公開されていますので、興味がおありの方はご覧いただければと思います。

執筆者プロフィール

井上 慎也(株式会社ラベルバンク) 

株式会社ラベルバンク食品表示グループ 所属 。
東京農業大学 応用生物科学部 卒業。東北大学大学院 生命科学研究科 博士前期課程 修了。大学院修了後、株式会社ラベルバンクに入社。食品表示グループの実務担当者として、日々食品表示パッケージのチェックや食品表示作成代行に従事している。

<株式会社ラベルバンク>
「食品の品質情報は見せた方が得」「分かるから、安心」を企業メッセージに、「食品表示作成・チェックサービス」では、食品表示の知識を軸に、分かりやすく気配りのできる食品表示を、「プロモーションサービス」では商品が選ばれるための販促企画から仕組み作りまで、「食品開発支援サービス」ではおいしくて体にいい商品を、愛情こめて提供いたします。

 

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