食の研究所
漆原 次郎(フリーランス記者) 2013年09月25日
「酵素ジュース」で酵素を体に取り込んでも、胃で自分の酵素に分解されるだけ・・・。前篇ではそんな酵素の話を、機能性食品の専門家である愛知学院大学教授の大澤俊彦氏から聞いた。
「酵素の摂取」と関係の深いのが、食材を生のまま食べる「生食」だ。「ローフード」とも呼ばれる。加熱で失われがちな酵素などの成分を体に取り込むための方法として生食を実践している人もいるという。
大澤氏の話からすれば、生食で酵素を摂取したとしても、その酵素が体に作用する望みは薄い。だが、生食にはほかの作用もあるのかもしれない。
そこで、後篇では生食に関心の眼を向けて、再び大澤教授の話を聞くことにしたい。
生食と、加熱調理した料理を食べるのとでは、それぞれにどのような利点があるのか、改めて聞いてみた。また、生食の目的の1つである「アンチエイジング(抗加齢)」についても、食の点での大切なことを聞いてみたい。
──「生食」あるいは「ローフード」と呼ばれる食事を実践している人がいます。加熱すると失われがちな酵素やビタミンなどを効率よく摂取することを目的としているようです。
大澤俊彦教授(以下、敬称略) 繰り返しになりますが、酵素については、食べて取り入れても体に吸収される可能性はあまりないと思います。外から入ってきたタンパク質である酵素を、私たちのタンパク質分解酵素が分解するからです。
だからといって、加熱調理した料理ばかり取ればいいかというと、そうは思いません。生の食材を取ることには他の良い点もあるからです。
──生食には具体的にどのような良い点がありますか?
大澤 例えばビタミンCは加熱すると壊れてしまいますが、生の食材のまま食べれば、壊れずに体に取り込むことができます。
特に、生の食材をすりつぶして野菜ジュースや果物ジュースなどにすれば、植物の細胞壁が壊れるので、成分が体に吸収されやすくなります。
同じことは、ゴマでも言えます。ゴマには、ゴマリグナンなどといった、体内の活性酸素を取り去る作用のある抗酸化物質などが多く含まれています。しかし、ゴマをそのまま食べるよりも、すり潰してから食べる方が、こうした成分は体に吸収されやすいと言えます。
大澤俊彦氏。愛知学院大学心身科学部健康栄養学科教授。名古屋大学名誉教授。農学博士。1974年、東京大学大学院農学研究科博士課程修了。オートストラリア国立大学理学部化学科リサーチフェローを経て、1978年、名古屋大学農学部へ。助手、助教授、教授を経る。2010年より愛知学院大学心身科学部学部教授、2011年より同学部長に就任。日本フードファクター学会理事長、日本ゴマ科学会会長、アスタキサンチン日本AOU研究会理事長、日本食品安全協会理事などを歴任。
──生食は、加熱調理した料理のデメリットを避けることもできると思います。加熱調理にはどのようなデメリットがありますか。
大澤 食材を加熱すると、タンパク質の構造が熱によって変わります。タンパク質と糖から、糖化タンパク質というものができるのです。その結果、消化性が悪くなるという作用が生じます。
また、肉などに含まれるタンパク質を加熱すると、ヘテロサイクリックアミンという発がん性物質に変わることも知られています。“お焦げ”の部分がそうで す。もっとも、動物に一生お焦げを食べさせたとしてもそう簡単にがんにはなりません。人間が少しのお焦げを食べるだけでがんになるようであれば、すでに人 類はがんで滅んでいることでしょう。
──逆に、食材を加熱調理して食べることには、どんなメリットがあるでしょうか?。
大澤 まず、風味を良くするということがあります。有名なのはメイ ラード反応です。先ほどは、加熱でタンパク質と糖が結びつくと消化性が悪くなるという話をしましたが、逆にこの反応によって、いい香りも生まれます。褐色 に色づいている食材の多くは、この反応が起きたものです。せんべいの香ばしさもそうですし、醤油の黒さもそうです。
それに、多くの食材では、加熱をすれば食べやすい状態になるというメリットもあります。生で食べるわけにいかない食材も、加熱すれば食べることができます。
生の食材にも、加熱調理した料理にも、メリットとデメリットがあるわけで、その人が何を大事にするかという問題ではないでしょうか。
1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。
<記事提供:食の研究所>
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