食の研究所

「酵素ジュースできれいになれる」は本当か? 酵素と生食の真相を追う(前篇)

漆原 次郎(フリーランス記者)  2013年08月28日

 「酵素」を生のジュースや食材として体に取り込もうとする健康法が流行っているという。

 アマゾンで「酵素」と検索してみると、液体の「酵素液」やカプセルの「生酵素」といった食品が並ぶ。また「酵素たっぷりで『やせ体質』」や「酵素エキスできれいに」といった謳い文句の本が多く出ていることも分かる。

 「酵素」と聞くと、「酵素の力」や「酵素パワー」といった効き目のありそうなイメージをなんとなく思い浮かべる人もいるだろう。体にとって大切なものなのかもしれないな、と。

 しかし、その酵素を体に取り込むことに、本当はどのような意味があるのだろうか。宣伝するほどの効き目があるなら、なぜ薬でなくて食べものなのか。

 さらに、加熱で失われがちな酵素などの成分を体に取り込むための方法として「生食」を実践している人もいるという。生で食材を食べることには、どのような意味があるのだろうか。

 このような、酵素や生食に関する疑問を、愛知学院大学心身科学部教授の大澤俊彦氏に投げかけてみた。大澤氏は、食品と生命機能の関わりを研究テーマとしている。機能性食品の専門家の目に、酵素摂取や生食はどう映るのだろうか。

 前篇では、そもそも酵素とはどういう物質であるのかを解説してもらう。その上で、人が酵素を取り込むことに意味があるのかを聞いていく。後篇では、食べものを生で食べることと加熱して食べることの違いなどを聞いてみることにしたい。

人は酵素なしには生きていけない

──そもそも、「酵素」とはどのような物質でしょうか?

大澤俊彦教授(以下、敬称略) 酵素はタンパク質です。植物、動物、微生物など、どの生物の体の中にも酵素があります。酵素は、自分自身は変化せずにAという物質をBという物質に変える、触媒の働きを持ちます。

例えば、私たちの唾液の中にはでんぷんを分解するアミラーゼという酵素があります。小腸から分泌されて、タンパク質を分解するプロテアーゼという酵素もあります。また、脂質を分解するリパーゼという酵素もあります。

 これらの酵素により、でんぷんは糖に、タンパク質はアミノ酸に、脂質は脂肪酸にそれぞれ分解されます。それにより、これらの栄養素が体内に吸収されるのです。生物は、酵素が働かないと生きていくことができません。

──私たち人は酵素を作ることができるのでしょうか?

大澤 はい。人はいま紹介したような酵素を、体の中で作ることができます。

──酵素は「発酵食品」という形でも利用されていますね。

大澤 ええ。食品が本来持っている機能性を高めるのも酵素です。特に 酵素をもとに発酵させた食品は、苦みなどが なくなり味が良くなるなど品質が高くなります。また、体内で有毒に働き老化の原因になる活性酸素を不活性化する「抗酸化性」も高くなります。納豆、味噌、 醤油などが発酵食品の代表例です。

「酵素ジュース」の酵素の働きは期待できない

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大澤俊彦氏。愛知学院大学心身科学部健康栄養学科教授。名古屋大学名誉教授。農学博士。1974年、東京大学大学院農学研究科博士課程修了。オートストラリ ア国立大学理学部化学科リサーチフェローを経て、1978年、名古屋大学農学部へ。助手、助教授、教授を経る。2010年より愛知学院大学心身科学部学部 教授、2011年より同学部長に就任。日本フードファクター学会理事長、日本ゴマ科学会会長、日本AOU研究会理事長、日本食品安全協会理事などを歴任。

──その一方で、酵素を生のジュースや生の食材として取り込もうとする方法が「健康によい」などと謳われています。例えばネット上では、「酵素できれいになる」として「酵素ジュース」の作り方を紹介する記事もあります。酵素の効果をどう考えたらよいでしょうか?

大澤 酵素を取り入れたとしても、少なくとも“喉の下”あたりからは酵素の効き目がなくなると思います。

 私たちの体の胃からは、タンパク質を分解するペプシンという酵素が出てきます。外から入ってきたタンパク質である酵素を、私たちのタンパク質分解 酵素が分解するわけです。これで、外から入ってきた酵素はアミノ酸という物質に変わります。「酵素ジュース」などで体に取り込もうとした酵素は、胃ですで にバラバラになってしまうというわけです。

 バラバラになった物質が体に取り込まれて、体の中でAという物質をBに変えるような作用が示されれば、その物質には酵素作用的な効果があると言えるで しょう。しかし、ほとんど期待できないというのが、私の考え方です。完全に否定するわけではありませんが、効果があるとするデータはほとんど存在しないの ではないでしょうか。

──「酵素でやせやすい体質になる」と訴える本もあります。「消化がよく酵素たっぷりのジュースが排泄の働きを助ける」ということのようです。

大澤 排泄の働きを助けるのは食物繊維です。酵素たっぷりのジュースに、食物繊維も確かに入っているかもしれませんが、酵素自体が排泄に働くようなことはありません。

──「酵素は加熱すると壊れてしまうので、ジュース作りには生の野菜や果物を使うことが肝心」ともあります。

大澤 確かに、酵素は加熱すると壊れてしまいますが、一般的に摂氏60度ぐらいまでであれば壊れません。しかし、そもそも「外から取り入れる酵素が体に効く」ということを前提に語られていることが問題だと思います。

──さきほどの話では「少なくとも“喉の下”あたりからは酵素の効き目がなくなる」とのことでした。では、喉の下あたりまでならば、酵素を外から取り入れる効果があるということでしょうか。

大澤 タンパク質分解酵素のペプシンが働くのは胃から先ですからね。胃で消化されるよりも以前に効果を発揮するとされる酵素もあります。例えば、チオレドキシンという酵素は、食道疾患を抑えるとして京都大学などで開発が進められています。

宣伝でも「酵素が体に吸収」までは言わず

──では、私たちの体内にある酵素の働きを、食べることで高めることはできるのでしょうか?

大澤 私たちが体の中に本来持っている酵素の活性を高めるような成分の食材を取ることには意味があります。例えば、ゴマやウコンなどには、抗酸化酵素や解毒酵素の活性を高めるリグナンという物質が含まれています。

 しかし、酵素を直接、体に取り入れて酵素の力を発揮させようとするという話には、“勘違い”があるのです。

──勘違いであるにもかかわらず、なぜ、酵素を体に直接的に取り込む健康法が流行っているのでしょうか?

大澤 いわゆる「酵素健康法」を吹聴する医者の方が、発酵食品と酵素をごちゃまぜにしているのだと思います。

 テレビで、ある有名な酵素食品のコマーシャルをちゃんと見てみると、「人間の酵素活性は落ちてくる。だから酵素をとりましょう」と言っていますが、「酵素が体に吸収されます」とまでは言っていません。

 酵素健康法を広めようとする方は、酵素の様々な機能や特徴のうちのいいところだけを寄せ集めて、1つの論を作ろうとしています。もし、反論があるのだとすれば、きちんとした根拠を持って反論してほしいと思います。

執筆者プロフィール

漆原 次郎(フリーランス記者) 

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。

<記事提供:食の研究所
JBpress、現代ビジネス、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインの4つのビジネスサイトが共同運営する「食」の専門ページ。栄養士が勧める身体にいい食べ方、誰でも知っている定番料理の意外な起源、身近な食品の豆知識、食の安全に関する最新情報など硬軟幅広い情報を提供。
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