食の研究所

食の社会学(第1回) 「食の正論」で家庭は崩壊~超現実的食育のススメ~

菅 慎太郎(株式会社味香り戦略研究所)  2013年10月30日

世の中の「食のトレンド」を追いかけ、その背景を探る筆者にとって、「食のトレンドの変遷」とは、単に趣味嗜好が変わったというレベルのものではない。実は「家族の問題」や「社会構造の変化」も市場トレンドに大きく影響すると見ている。

2010年の国勢調査において、世帯構成における単身世帯、すなわち、「おひとりさま」が3割を超え、日本の世帯構成の最も多い世帯の形となったことは記憶に新しい。まわりの人々を見わたしてみても、若年層の未婚者、求婚者が多く目につき、高齢社会によって、死別、離別は増えており、「一人暮らしの高齢者」も身近に存在している。

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世帯人員別の総数(平成22年国勢調査より)

上記は、国勢調査の「世帯人員別(平成22年)」の総数をグラフ化したものだが、「1人」世帯が1678万世帯で1位、続いて「2人」世帯が1412万世帯で2位。世帯総数が5184万世帯ある中で、「1人、2人」の世帯だけで3090万世帯となり6割を占めている。

結果として、消費トレンドにおける「世帯の必要量」はもはや「大量消費」型ではなく、「少量多頻度」型にシフトせざるを得ない。

カット野菜は誰にも「おいしく」ない

さて、そんな「おひとりさま」が増えることで、食を取り巻くトレンドはどんな変化が起こるのだろうか。

単純には、「少量・小サイズ」志向が高まるということだが、スーパーの生鮮売り場を見れば分かるように、キャベツや大根がいままで1個、1本売りだったところから、キャベツは半分や4分の1サイズ、さらには「キャベツ千切りのカット野菜」と用途別に最小化される傾向が強まっている。また大根も「半分」やプラカップに入った「大根おろし」など、素材を合わせる、組み立てるだけの形状での販売、「食材のキット化」が進む。

しかし、加工調理は利便性を高めるメリットがあるだけではなく、デメリットも多い。

野菜類は「カット」することで急速に鮮度が落ちる。また、衛生管理を考え、徹底した洗浄が行われ、野菜本来のうまみや味は薄れ、水溶性の栄養成分はもちろん奪われていく。さらには、店頭での「日持ち」もするものではなく、カットしてから3日間しか鮮度が保てず、売り手側も効率の悪い商材となっている。

こうしたことから、カット野菜売り場は、登場からそれほど売り上げが伸びておらず、コンビニのチルド商材など「中食(なかしょく)」を除いては成長著しくない。

一方で、夫婦共働きで子どもがいる世帯にとって「調理の簡素化、簡便化」は重要で、カット野菜とドレッシングと半熟卵を買ってきてサラダに仕立ててしまうなど、「キット化」された商品を利用する程度である。

手間のかかる「食育」が家族を苦しめる

食育教室において講師を務める筆者は、多くの親子に接していると、家庭の「食」における切実な悩みを聞く。

「食事のマナーが悪い」「子どもが食べてくれない」などは、特に現代的な問題ではなく、これまでもそうだったであろう。だが、夫婦共働き世帯に特に切実なのは「食にかける時間がない」というものだ。

背景には、祖父母や親戚などが近くにおらず、「核家族」になったことに起因する「家事を担う労働力不足」がある。「仕事」は残業、「家事」は夜や休日へ持ち越し、そんな毎日を繰り返す親に「子育て」の3重負担は、努力や気合だけで乗り越えられるものではない。

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食にかける1日の時間 食育教育に参加した未就学児(乳幼児含む)を持つ母親 36 名にヒアリングした(味香り戦略研究所調べ)

女性の多様な働き方を推進するという政府の方針は、「総論」には賛成しても、その解決策が「育児休暇の長期化」ではあまりに現実を理解できていないと言わざるを得ない。働く女性を救うのは、「まとまった期間」ではなく、「毎日の負担軽減」なのである。それゆえ、「残業なし」や「時短」が女性のキャリアアップや雇用にマイナスの影響を響かせないような配慮こそ、「子育て」を後押しするに違いない。

執筆者プロフィール

菅 慎太郎(株式会社味香り戦略研究所) 

株式会社味香り戦略研究所味覚参謀、口福ラボ代表。味のトレンドに特化したマーケティングの経験を生かし、大学での講義や地方での商品開発や地域特産物の発掘、ブランド化を手がける。
キッズデザインパーク講師。日本味育協会認定講師。

<記事提供:食の研究所
JBpress、現代ビジネス、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインの4つのビジネスサイトが共同運営する「食」の専門ページ。栄養士が勧める身体にいい食べ方、誰でも知っている定番料理の意外な起源、身近な食品の豆知識、食の安全に関する最新情報など硬軟幅広い情報を提供。
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