食の研究所

「トランス脂肪酸」気にするくらいなら禁煙を 脂肪酸との付き合い方(前篇)

漆原 次郎(フリーランス記者)  2013年11月27日

食生活に気を配っている人は「トランス脂肪酸」という言葉を聞いたことがあるかもしれない。数年前から 「有害だ」「危険だ」と、メディアで槍玉に挙げられてきた。2004年公開の映画「スーパーサイズ・ミー」では、監督自身がファストフードのハンバーガー を食べ続け、30日で11キロの体重増、7%の体脂肪率増加、さらに肝臓の炎症といった「結果」を出し、その話題もトランス脂肪酸が注目されるきっかけに なった。

「トランス脂肪酸か。健康に悪そうだが、普段の食事で気にする必要があるのだろうか」。その程度に気にかけている人は多いだろう。

そこで今回は、トランス脂肪酸を含む「脂肪酸」に焦点を当て、心配の仕方などを考えていきたい。

話を聞いたのは、昭和女子大学生活科学部健康デザイン学科教授の江崎治氏だ。江崎氏は、2012年3月まで国立健康・栄養研究所で代謝学や内分泌学などの 研究をするかたわら、国民の健康維持・増進などへの指針となる『日本人の食事摂取基準』の「脂質」の項目を担当してきた。また、内閣府の食品安全委員会が 2010年に開催した「食品に含まれるトランス脂肪酸に係る食品健康影響評価情報に関する調査」検討会の座長も勤めた。

前篇では、脂肪酸とは何か、また、その一種であるトランス脂肪酸にどう向き合えばよいかを聞く。後篇では、トランス脂肪酸が使われなくなる風潮のなかで使用量の増加が指摘されている「飽和脂肪酸」にも目を向け、気の使い方を聞いていきたい。

“トランス型”の“不飽和脂肪酸”が「トランス脂肪酸」

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江崎治氏。昭和女子大学生活科学部健康デザイン学科教授。医学博士。岐阜大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部を経て、1986年より国立健康・栄養研究所へ。同研究所で、生活習慣病研究部部長、基礎栄養研究部部長などを歴任して、2012年4月より現職。専門は代謝学、内分泌学、スポーツ科学など。糖尿病、肥満発症予防のための基礎研究を進めてきたほか、『日本人の食事摂取基準』(2005年版、2010年版)の「脂質」の項目の策定などにも取り組んできた。

江崎治教授(以下、敬称略) 脂肪の主要な部分をなすものが脂肪酸です。私たちは、食べものから「中性脂肪」と呼ばれる脂肪を体に摂り込みますが、その中性脂肪には3つの脂肪酸がくっつくのです。

また、体の細胞膜には「リン脂質」という別の種類の脂肪がありますが、そのリン脂質には2つの脂肪酸がくっつきます。

脂肪酸はたくさんの炭素元素(C)と水素元素(H)から構成されます。その点は、石油とよく似ています。

ただ石油と異なるのは、構造の末端に、炭素1個、酸素2個、水素1個の「カルボキシル基」(-COOH)があることです。脂肪酸は、このうちの「OH」を 使って体内の脂肪などにくっつくことができます。石油にはこれがないため、たとえ体に取り込んでも素通りして排泄されてしまいます。

──脂肪酸には、さらに分類があるのですね。

江崎はい。大きく「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に分けられます。

脂肪酸はたくさんの炭素元素(C)と水素元素(H)から構成されると言いましたが、そのなかで、炭素と炭素が「C=C」のように結びつくことがあります。これは「二重結合」と言います。

二重結合の入らない脂肪酸は、飽和脂肪酸と言います。一方、この二重結合が入っている脂肪酸は、不飽和脂肪酸と言います。

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脂肪酸の分類

さらに不飽和脂肪酸に注目すると、この二重結合のところで構造が曲がっているものと、曲がらず全体がまっすぐになっているものがあります。まっすぐになると常温で固まりやすくなります。曲がっている方を「シス型」と言い、まっすぐな方は「トランス型」と言います。

つまり、脂肪酸のうち、炭素の二重結合の入ったものが不飽和脂肪酸であり、さらにそのうち二重結合が曲がらずにまっすぐなものは「トランス型不飽和脂肪酸」です。これを略して「トランス脂肪酸」と呼んでいるわけです。

油を硬化するときにできてしまうトランス脂肪酸

──なぜ、トランス脂肪酸が人々の関心を呼ぶようになったのでしょうか?

江崎「トランス脂肪酸が多く含まれている食品をたくさん食べる人の間で心筋梗塞が増えている」というデータが米国や欧州で報告され、「トランス脂肪酸の摂取は怖いのでは」と言われだしたのです。

ただし、心筋梗塞が増えたことの原因がトランス脂肪酸にあるとは言い切れません。トランス脂肪酸を体に取り込んでいる人は、その食品にトランス脂肪酸とともに含まれるべつの物質を取り込んでいて、その物質が心筋梗塞を増やす真の原因であることもありえるのです。

また、トランス脂肪酸の含まれる食品を買う人びとの生活環境や健康面があまり良好ではないという原因も考えられます。

仮に、トランス脂肪酸を多く含んだ食品を人びとに食べ続けてもらい、心筋梗塞になりやすいかを調べれば、原因かどうか突き止められるかもしれません。しかし、それは人体実験になるのでできません。本当のところは、なんとも言えないのです。

──心筋梗塞以外では、どんな病気との関係があると言われているのですか?

江崎 慢性的な炎症との関係が言われています。また、肥満との関係があるとの研究結果もあります。一方で、糖尿病やがんとの関係ははっきりしていません。

執筆者プロフィール

漆原 次郎(フリーランス記者) 

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。
著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。

<記事提供:食の研究所
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