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目指すのはイタリア、「食の国」日本に必要な輸出戦略とは? 空前の和食ブームを追い風にせよ

白田 茜(フリーランス記者)  2014年04月29日

「健康的」というイメージや見た目の美しさから海外でブームになっている日本食。各国で日本食レストランも急増し、また、日本食を食べようと来日する外国人も増加している。日本の農水産物・食品の輸出も増加を続けている。

政府は、農林水産物・食品の輸出額を2020年に1兆円規模にするとの目標を掲げた。各都道府県も海外で自治体主催の展示会を行うなど、輸出の促進に向けた積極的な取り組みを行っている。

輸出先の中心になっているのは米国とアジア。特に高所得者層の増加が著しいアジアへの輸出の伸びが顕著だ。こうした動きの背景には、日本の人口が減少に転じ、国内市場が規模縮小していることがある。新たな市場の開拓が迫られているのだ。日本食品の輸出の可能性と課題を探ってみたい。

世界に展開する日本のレストランチェーン

ユネスコの無形文化遺産に登録された和食。世界では「健康的な食事」として以前から注目を浴びていた。2013年時点で日本食レストランは世界に約5万5000店ある(外務省調べ)。2006年には約2万4000店だったので急増していることが分かる。主な地域では、アメリカなど北米に1万7000店、アジアに約2万7000店あると推計されている。

日本のレストランチェーンも次々と海外に進出している。家庭的な和定食が好評の「大戸屋」は、2014年現在、タイに42店舗、台湾に17店舗、インドネシアに6店舗、香港に4店舗、上海に1店舗、シンガポールに3店舗、アメリカに2店舗を出店している。

ちなみに、「和食」ではないが、カレーハウス「CoCo壱番屋」もアジアを中心に出店。現在、中国に36店舗、香港に7店舗、台湾に21店舗、韓国に20店舗、タイに20店舗、シンガポールに3店舗、インドネシアに1店舗ある。このように、近年レストランチェーンの出店の中心になっているのがアジア圏だ。

アジア圏への輸出額は過去最高に

農林水産省によると、世界の食の市場規模は2009年時点で340兆円。2020年にはアジア圏の経済成長などで680兆円に倍増するという。アジア圏だけ見ると、市場規模は2009年の82兆円から229兆円へと約3倍に増加すると予測されている。背景には、アジアの経済発展で高額所得者層が急激に増加していることがある。

今や、日本から海外への輸出は、対アジアが72.8%で大部分を占める。次いで北米16.5%、ヨーロッパ5.9%となる。国・地域別に見ると、日本最大の輸出先は香港。次いで、台湾、中国、韓国、タイ、ベトナムと続く。これまで日本の最大の輸出先は北米だったが、2009年に香港に取って代わられた。

農林水産省が2014年2月12日に発表した、2013年の農林水産物と加工食品の輸出額(速報値)は、前年比22.4%増の5506億円で、29年ぶりに過去最高を更新した。

和食がユネスコの無形文化遺産に登録されたことや、和食ブームを追い風に伸びたという。特に経済成長が続くアジア地域への輸出が大きく伸びている。味噌・醤油、日本酒などの和食関連の商品が伸びたほか、ホタテやりんごなどの農林水産物も好調だったという。

2012年までの農林水産物の輸出額は以下の通り。2007年をピークに伸び悩み、震災の2011年以降は減少傾向にあったことが分かる。2013年に久しぶりに好転し、過去最高を更新した。

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農林水産物の輸出額(推計)。単位は億円

「和食材」が鍵を握る日本食品の輸出拡大

日本は少子高齢化で人口が減少局面に入り、国内市場の規模が縮小する中、新たな市場の開拓が喫緊の課題になっている。地方自治体や食品メーカーも和食ブームを追い風に輸出を拡大しようとしている。このような動きを受け政府も本腰を入れ始めた。今や官民を挙げて輸出拡大をしようとしているのだ。

政府は「21世紀新農政2006」で農林水産物(加工食品含む)の輸出額を2009年に6000億円とする目標を掲げていたが、期待していたほどには伸びなかった。

日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によると、「食」の人気が一番高いのは日本、2位はイタリアだという。だが、「日本食の人気が輸出に結びついていない」という指摘もある。

イタリアの農林水産物輸出の状況を見てみると、2011年度の輸出額は434億ドル(日本円換算で約3兆4679億円)で、日本の輸出額51億ドル(2011年度、ドル換算)と比較すると規模がまったく違う。イタリアが主に輸出しているのは、ワイン(61億ドル)、パスタ等(27億ドル)、チーズ(27億ドル)、ピザ・ワッフル等(18億ドル)、オリーブオイル等(16億ドル)といったものだ。イタリアの食文化そのものを輸出しているような印象を受ける。

日本も和食ブームを受け、味噌・醤油など和食文化を代表する食材を中心に輸出を伸ばそうとしている。しかし、日本の輸出総額51億ドルのうち、味噌・醤油等は3億ドル、日本酒は1億ドル、茶は0.6億ドルに過ぎない。和食を代表する食材が占める割合は決して多いとは言えない。

そこで、政府は「日本『食』の基軸となる食品・食材を、食市場の拡大が見込まれる国・地域へ輸出することで、2020年までに1兆円目標を達成」すると新たに目標を定めた。

同時に、2012年から2020年にかけての重点品目の輸出目標額を定めた。水産物を1700億円から3500億円に、味噌・醤油などの加工食品を1300億円から5000億円に、米・コメ加工食品は130億円から600億円に、りんごなどの青果物を80億円から250億円に、牛肉を51億円から250億円にするという。

しかし、課題も多い。立ちはだかるのが、原発事故に伴う輸入規制や輸出先の国が輸入の際に求める認証制度などだ。農林水産省の資料によると、2014年1月24日時点で、37の国・地域から原発事故による輸入規制を受けている。

特に厳しい規制をしているのが韓国と中国だ。韓国では、日本の13都県で産出した野菜類などが輸出停止になっている。また、16都県のすべての水産品については、韓国の放射性物質基準に適合することの証明を求めている。また、中国では、10都県で生産された全ての食品と飼料が輸入停止になっている。

ただし、輸入規制が緩和される動きもある。EUでは輸入規制を見直し、東京都と神奈川県については、放射性物質の検査を義務づける規制を解除した。その他、カナダや豪州など13の国・地域で規制が解除されている。

一部の国から規制が解除されつつあるものの、原発事故の影響がいまだに影を落としているというのが大きな構図だ。

執筆者プロフィール

白田 茜(フリーランス記者) 

白田 茜(しろた あかね) 1978年佐賀県生まれ。 佐賀県庁で食品のブランド化に関わる。その後、大学院で農業政策や食品安全に関するリスクコミュニケーションを学ぶ。
食品コンサルタント会社を経て、現在は社会的関心が高い科学ニュースについて専門家のコメントを収集しジャーナリストに提供する活動をしている。関心のあるテーマは、農業、食品流通、食品安全、リスクコミュニケーション。

<記事提供:食の研究所
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